ウシ卵胞・卵子の成長について

石川県立大学 生産科学科 動物繁殖学研究室
榊田 星史

ほ乳動物の卵巣には数十万の卵胞が含まれている。しかし,その殆どは繁殖期の間に利用されないままである。従って,優良な遺伝形質を有効利用するには前胞状卵胞を含めた微小な卵胞の効率的な体外培養系の確立が望まれる。その基礎として,卵胞と卵母細胞がどのような成長様式を示すかを知ることが必須となる。

卵胞と卵母細胞の相対的成長を,卵巣の組織標本から明らかにする場合,卵胞の直径が数μmから0.3mmまでの微小な前胞状卵胞のデータは得やすい。しかし,直径が10mm,さらには20mmの卵胞では,2,000枚あるいは4,000枚以上の組織切片から最大径の卵母細胞のある1枚を探索しなければならず,時間を多く消耗する極めて手間のかかる作業が必要である。一方,新鮮材料では,3から5mmの胞状卵胞から排卵直前のグラーフ卵胞とそれらの中にある卵母細胞のデータは容易に得られるが,逆に新鮮材料で数十μmから0.3mmの微小な前胞状卵胞では,卵胞とその中に含まれる卵母細胞の両方を対で分離できる方法が確立していないため,データを得るのが極めて難しい。

これまでにウシでは,卵巣の組織標本を材料に直径が数十 μmから4mmの卵胞とその中の卵母細胞の相対的成長の様式について明らかにされている。しかし,これらの組織切片の範囲を超えて,直径4mmから排卵直前の20mm以上の巨大な卵胞に至るまでの相対的成長を明らかにした報告はない。さらに,新鮮な卵胞と卵母細胞を材料とした報告はない。

ところで,固定や脱水,透徹,パラフィン包埋,薄切,染色などの組織標本作製過程では,卵巣内の卵胞が卵胞液を満たした大きな空洞組織であることや卵母細胞が体細胞に比べ巨大な単一細胞であることのために,膨張あるいは収縮という現象が起きると考えられる。

生体で得られた卵胞,卵母細胞を体外で培養して,受精させ,胚の培養や操作につなげるには,組織標本ではなく,新鮮な卵巣材料を基に卵胞,卵母細胞における数十μmから完成したグラーフ卵胞までの一連の卵胞とその中の卵母細胞の相対的成長を明らかにする必要がある。そこで,まず,卵巣組織の標本作製過程後の卵胞や卵母細胞が収縮するか否かを明らかにし,次いで,直径数十μmの微小な前胞状卵胞の採取とその中の卵母細胞を対で採取する方法を確立し,これらの成果を踏まえて,直径数十μmから排卵前の大きな卵胞までの卵胞とその中の卵母細胞の相対的成長の関係をウシで明らかにしようとした。これら一連の研究について概略を紹介する。


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