遺伝子資源保存法としてのマウス精子凍結保存
技術の改良

富山大学生命科学先端研究センター動物実験施設
西園 啓文

遺伝子改変マウスの飼育維持コスト増・飼育スペースの枯渇の解決法として,遺伝子改変マウスの受精卵の液体窒素中での長期保存が行われている。しかし,受精卵の凍結保存には限界があり,さらにコストパフォーマンスの高い精子凍結の実用化の必要性が以前より示唆されてきた。

私がマウス生殖工学技術の研究を開始した2002年当時,マウス精子の凍結保存技術は,最も主要なマウス近交系統であるC57BL/6系統マウスの精子について,凍結融解後の受精能が著しく低下することがわかっており,「実用化」という域には達していなかった。

まず始めに,『マウス凍結精子において受精能が低下する原因』を突き止めるべく,凍結融解後に最も受精率が低下するC57BL/6系統マウスと受精率がほとんど低下しないDBA/2系統を用いて研究を行った結果,凍結融解後にマウス精子の受精能が低下する原因は,運動性の低下というよりもむしろ,先体内容物の漏出によるものであることが明らかにした(Nishizono et al, 2004)。

そこで,この研究結果を踏まえ,
@凍結時の精子細胞膜傷害を保護できるような物質を含んだ精子凍結保存液の開発
A傷害を負った凍結精子でも受精できるような体外受精システムの開発
というスキームで,技術開発を行った(平成15・16年 経済産業省地域新規産業創造技術貴発費補助金事業)

これらの鋭意検討中に,マウス精子の凍結保存効率を上げる物質として,アミノ酸の1種であるグリシンを見出した。その後のアミノ酸添加実験で,アミノ酸の中でもアラニン,グリシン,バリン,イソロイシン,グルタミンが目標値を上回るような強い効果を示し,その至適濃度は100mMであることがわかった。

また新たに,凍結精子が受精能獲得(capacitation)を起こすことができないのではないかと着想し,細胞膜からコレステロールを遊離させる作用のあるメチル-β-シクロデキストリンを,凍結融解後のマウス精子に応用し,R18S3溶液で凍結したC57BL/6Jマウス精子でも50%以上の体外受精率を達成することに成功した(Takeo et al, 2008)。

これらの成果は,マウス精子凍結保存/体外受精システム-FERTIUP(R)-として九動株式会社より上市されている(特許公開2005-270006,特許公開2006-204180)。

本講演ではこれらの開発過程と,開発技術の方法,最新のトピックスについて報告する。


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