N-end rule pathway による細胞内タンパク質分解とその調節の分子機構


金沢医科大学総合医学研究所 生命科学研究領域 遺伝子改変動物(蛋白質制御)研究分野
田崎隆史

生命活動において最も重要な有機物であるタンパク質は,遺伝子レベルにおいてその発現が調節されるだけでなく,翻訳後修飾によっても多様なメカニズムによって制御されています。その中でも,ユビキチン分子によるタンパク質修飾は,細胞周期,DNA修復,癌抑制,細胞内トラフィッキング,品質管理等,あらゆる経路に関与している重要な制御機構です。私は,N-end rule経路による生理機能とその分子機構の解明に13年前から取り組み,生化学,分子生物学的手法を中心に,タンパク質分子,細胞,遺伝子改変マウスを使って研究しています(参考文献1,2)。

N-end rule とは何か?1980年代半ば,Varshavskyらは,N末端アミノ酸1残基が異なるだけで,蛋白半減期が劇的(数分から20時間以上)に変化する現象を発見しました。それが,最初に同定されたユビキチン修飾依存の選択的タンパク質分解系で,いわゆるN-end(N末端)rule(法則)と呼ばれています。このタンパク質の寿命に関わる法則は,酵母,植物,哺乳類,さらに驚くべき事に,ユビキチン系を持たないバクテリアにも存在し,進化の過程で保存されています。

N-end rule活性を持つ基質タンパク質のN末残基は,直接,または修飾後,N末端残基認識酵素(N-recognin)によって認識されユビキチン化が促進されます。そしてユビキチン化された基質タンパク質は,分解酵素26Sプロテアソームによって分解されます。これら一連の,N末端残基修飾,認識,ユビキチン化,分解の経路をN-end rule pathwayと呼び,Varshavskyらの研究で,90年代末までに,酵母を駆使した分子生物学研究によって,主な構成タンパク質が明らかになりました。しかし,生理学的機能や哺乳類での構成タンパク質についてはよく分かっていませんでした。本セミナーでは,プロテオミクスや遺伝子改変マウスを駆使した研究により次第に明らかになってきたN-end rule pathwayと様々な生理学的機能を最近の知見を交えながら紹介します。

(参考論文)
1)Tasaki T, Sriram SM, Park KS, and Kwon YT. (2012) Regulation of protein function by N-terminal degradation signal. Ann. Rev. Biochem. Volume 81 in press
2)Tasaki T & Kwon YT (2007) The mammalian N-end rule pathway: new insights into its components and physiological roles. Trends Biochem. Sci. 32, 520-527


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