老化耐性・がん化耐性・真社会性齧歯類ハダカデバネズミの分子生物学的研究の展開


科学技術振興機構 さきがけ専任研究者
慶應義塾大学医学部生理学 特任講師(非常勤)
三浦 恭子

ハダカデバネズミ(DEBA)は、アリやハチに類似した分業制からなるカースト社会をもつ齧歯類である。マウスと同等の大きさながら、異例の長寿(最大寿命>30年、平均寿命28年)という特徴を持つ。また、これまでに自発的な腫瘍形成は一切認められていない(N=800)。

我々はこのDEBAを抗老化・抗がん化機構・社会性の解析のための新規のモデル動物として起用し、2010年度から日本初の分子生物学的研究体制の構築を進めてきた。飼育室の設立・細胞株の樹立・遺伝子配列情報など基礎的な研究情報の取得を行い、研究基盤整備をほぼ完了させつつある。具体的には、in vitro 実験に供するためのDEBA線維芽細胞株およびiPS 細胞株の樹立、DEBA臓器のmRNAシーケンスによる遺伝子発現情報の整備、MRI脳アトラスの作製を行った。これらを踏まえ、現在我々は、ハダカデバネズミの老化/老化関連疾患への耐性を規定する候補遺伝子群の同定に向けて、次世代シーケンサーによる組織別発現遺伝子リストの作成と、ヒト/マウスの組織別発現遺伝子の情報を組み合わせたDEBA種特異的発現遺伝子群DeBATs(DEBA-associated transcripts)の抽出パイプラインを構築し、候補遺伝子の選定を進めている。同時に、ハダカデバネズミiPS細胞や線維芽細胞の細胞生物学的解析を進め、抗老化・抗がん化に関与する可能性があるハダカデバネズミ種特異的な現象を見出しつつある。

本セミナーでは、ハダカデバネズミの新しいモデル動物としての魅力や生態、そして現在の研究について活発に論議したい。


北陸実験動物研究会ホームページに戻る