条件的ノックアウトマウスを用いた脳PDGFの研究


富山大学大学院医学薬学研究部(医学)病態・病理学
生命科学先端研究センター センター長
教授 笹原 正清

脳で豊富に血小板由来増殖因子 (PDGF)が発現する事を見出し、その機能的な役割を条件的ノックアウト(KO)モデルによって示した研究の一端を紹介する。 PDGFはAからDのペプチドのホモあるいはヘテロダイマーとして機能し、膜貫通型チロシンキナーゼ受容体 (PDGFR)-α または-β のホモあるいはヘテロダイマー化を誘導する事により細胞内にシグナルを惹起する。PDGFは、元来、間葉系細胞に対する主たる増殖因子の一つと考えられてきた。しかしながら、我々は、粥状硬化症におけるPDGFの役割を研究する過程で、偶然、PDGFおよびPDGFRが脳に豊富に発現する事を見出した。これらの発現は、脳の発達の特定の時期や、虚血などの侵襲によって誘導された。しかしながら、PDGFRのNull KO モデルは胎生期ないしは周産期致死性であり、脳における機能評価は困難であった。

作製したCre‐lox P法によるPDGFR-β の条件的ノックアウト (KO) マウスの研究から、脳では脳室下帯に分布する神経幹細胞、脳の広い範囲に分布する神経細胞、および血管周囲細胞にPDGFR-βが発現することを示した。これらの脳に発現するPDGFR-β は記憶や情動等の高次脳機能の発達、虚血等の侵襲からの神経細胞の保護、損傷後の脳血管やグリア反応の誘導等に関与した。さらに神経幹細胞の機能制御を介して神経組織の維持と神経再生能力を誘導する可能を示した。現在さらに研究を継続中である。モデルマウスの開発が研究の推進に役割を果たした一例を提示する。


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