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PCRを活用した新しい微生物モニタリングの紹介

日本チャールス・リバー(株)モニタリングセンター
丸山 滋

実験動物の健康状態は試験研究に結果に影響を与える事から、その健康管理は実験動物を使用する者にとって最も重要な事項の一つである。実験動物が健康を損ねる大きな要因の一つは微生物感染であり、試験研究データの信頼性、動物福祉、実験動物施設管理などの面から、適切なタイミングの微生物学的評価により感染の有無を把握し適切な対応をすることは非常に重要である。

チャールス・リバーグループでは、微生物学的評価に関しグループ内の試験実施施設に依らず同一の結果が得られるよう、試薬・機器の統一、SOPの共有化など手法の統一化と技術レベルの標準化を進めている。それにより世界中のどの生産施設からでも微生物学的に同レベルの品質の動物が提供可能になっただけでなく、その評価手法を利用した受託微生物モニタリングサービスにおいても、全世界で共通の項目と精度で微生物モニタリングを提供できるようになってきている。日本チャールス・リバーも歩調を合わせ、2009年に抗原を固層化したビーズを用い多種類の抗体を同時に検出することが可能な血清試験系MFIA(Multiplexed Fluorometric ImmunoAssay)を、2011年にはリアルタイムPCR(Polymerase Chain Reaction)による試験系を導入した。いずれも高精度かつ迅速な結果の提供を可能とする技術であり、日本ではほとんど評価対象とされていない病原微生物を含めた、非常に多くの微生物を短時間かつ正確に検出することができるようになった。これら新手法の導入が、日本国内だけに留まらない、諸外国との実験動物授受をも視野に入れた微生物学的評価を可能にした。

PCRは感度・特異性が高く短時間で結果が得られるだけでなく分離困難な病原体の検出も可能な技術として、急速に発展してきた。近年の実験動物の微生物評価においては、囮動物ではなく評価対象動物からの直接採材により病原微生物の評価が可能であることが注目されている。すなわち、解剖により被検動物から血液や臓器を採取することなく、非侵襲的に採取可能な糞便、口腔・被毛などの拭取り、尿といった材料での評価が可能で、臨床症状の発現や抗体価の上昇を待つことなく感染成立直後に病原微生物が検出できるため囮期間が不要となる。つまりPCRは、感染初期や不顕性感染における有効な評価手法であるとともに、検疫動物への利用により検疫期間を大幅に短縮できる。加えて、従来は抗体の存在確認という二次的な検出方法に頼らざるを得なかったウイルスなどに関しては、抗原そのものの検出を行うため検出感度においても優位性がある上、抗体による評価が困難な免疫不全動物に対する微生物評価にも有効である。また、囮動物を用いずに済むことは囮飼育に係る手間や経費の削減とともに3Rのひとつ、Reductionにも寄与している。このようにPCRによる評価が有する多くの特徴は、実験者、飼育管理者の双方にとって非常に有用である。

上記の通り多くの利点を有するPCRに関し、近年米国では、PCRと囮動物を用いた従来の評価方法を組み合わせ、動物数、輸送経費等を削減しつつ精度を高く維持できる新しい定期微生物評価方法の提案を行い、普及しつつある。非侵襲性に採取したサンプルは複数のプールが可能なことから、個別換気システム(IVC) 飼育動物の微生物評価にも有用である。このような安価かつ高精度の新しい定期的微生物モニタリングの概念は、検疫への活用とともに徐々に広まりつつある。 以上述べたように、本研究会では動物淘汰を必要としない、PCRによる微生物評価法を新提案として紹介する。


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