129系統由来ES細胞における血清条件での安定的な自己複製の遺伝的要因

金沢医科大学 総合医学研究所 大塚 哲

胚性幹細胞(ES)細胞は、従来の血清存在下の培養法を用いて樹立され、LIF依存的に 多能性を維持したまま安定的に自己複製する。疾患モデルマウス由来のES細胞の樹立 は疾患の原因解明および治療法確立の目的で様々なマウス系統からES細胞樹立が試され、例えば129系統からは極めて安定的に自己複製するES細胞が樹立できた。これに対して、1型糖尿病モデルマウスであるNOD(non-obese diabetic)系統からは、血清条件ではES細胞の樹立ができなかった。このように、従来の血清条件において、ES細胞樹立ができるマウス系統(permissive系統)とできないマウス系統(non-permissive系統)が知られていたが、この理由に関しては不明であった。

では、なぜ129系統に由来するES細胞は、それほどまでに安定な自己複製ができるのだろうか?

近年、無血清条件でMekキナーゼおよびGSK3阻害剤の両者を組み合わせた「2i培養法」が確立され、全てのマウス系統からES細胞樹立が可能となっている。我々は、この2i培養法を用いて様々なマウス系統からES細胞株を樹立し、サイトカインLIFのシグナル応答性が血清条件下での自己複製の可否と密接に関連していることを報告した。また、このLIF応答性のマウス系統差の原因を調べたところ、候補因子として転写因子Tfcp2l1を同定した。Tfcp2l1が、そのようにLIFシグナル応答性を制御しているかが明らかとなりつつある。
本講演では、この転写因子Tfcp2l1を中心に、どのように129系統マウス由来ES細胞が安定に自己複製できるのかについて、最新の知見を紹介し、先生方のご批判を仰ぎたい。


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