雌性動物を用いた実験について
―雌ラットにおけるホルモンの影響―

福井大学ライフサイエンス支援センター生物資源部門 村田拓也

多くの動物実験では、雄性動物が用いられている。それは、雌性動物には性周期があるため実験条件を揃えることが難しいことが一因と考えられる。性周期をモニターする手間に加え、ラットの性周期を4日とした場合、正常雌ラットで性周期の各ステージにおいて検討を試みるなら単純に計算して雄性動物の4倍の匹数が必要となるからである。しかし、雄性動物で得られたデータを雌性動物で同等に考えて良いのかという問題がある。つまり、動物実験で得られたデータをヒトに外挿できるかは動物実験の課題の一つであるが、同時に雄性動物で得られたデータを女性に外挿できるのかという問題も存在する。女性に特徴的な内分泌動態の理解に加え、女性特有の疾患のメカニズム解明のためにも雌性動物を用いた動物実験の重要性が高まると考えられる。

性周期に関連して雌性動物で最も影響のある因子はエストロゲンである。エストロゲンは、卵巣から分泌されるステロイドホルモンであるが、3000以上の遺伝子の発現に関与することが知られており、その作用も多岐にわたる。子宮内膜、子宮筋、乳腺などの生殖系の組織、視床下部や下垂体の内分泌器官などの生殖系の組織への作用だけでなく、骨組織、心血管系への作用、脂質代謝への作用、そして摂食などの中枢への作用などがあげられる。血中エストロゲン濃度が低下する閉経後においては骨組織への影響が、そして思春期においてはエストロゲンの摂食抑制作用と摂食障害との関連が注目されている。これらの時期の疾患のメカニズムの解明のためにも正常性周期中での種々の生理機能や調節の変動が明らかにされることは重要であると考えられる。

今回は、エストロゲンの摂食と運動への影響について紹介する。
摂食への作用に関しては、エストロゲンの摂食抑制作用が生後発現してくる時期と脳の各部位のエストロゲン感受性が発現してくる時期を比較した。その結果、視床下部室傍核がエストロゲンの摂食抑制作用と一致した時期でエストロゲン感受性が現れた。運動に対する作用に関しては、エストロゲンの運動量を増加させる作用とオキシトシンとの関連について検討した。その結果、走行運動を制御する部位の1つとして考えられる視床下部腹内側核(VMH)にオキシトシンを作用させると運動量が増加すること、そしてエストロゲンがVMHに対するオキシトシンの感受性を高めていることがわかった。


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