ニホンザルおよびラットの上丘における視覚情報処理機機構の解析

富山大学大学院医学薬学研究部システム情動科学 西丸広史,松本惇平,高村雄策,小野武年,西条寿夫

哺乳類においてよく知られた視覚情報伝達経路として,網膜から視床の外側膝状体を介して大脳皮質の一次視覚野に伝わる神経経路がある(皮質視覚経路)。そのほかに,網膜から中脳の上丘や視床枕への直接入力する経路がある(皮質下視覚経路)。後者の視覚経路は,生後早期から活動を開始し,生存や社会行動に重要な意味を持った視覚情報を素早く検知するのに重要な役割を担っていると考えられている。これまでに我々はニホンザルを用いた研究によって,上丘のニューロンが顔や顔様の画像による視覚刺激に対して強く素早く反応することを明らかにしている(Nguyen et al. 2014, 2016),他者の顔は社会的行動を引き起こすための重要な信号であり,大脳皮質が発達段階にあるヒトの生まれたばかりの新生児でも,顔様の視覚刺激に強く反応することが明らかになっていることから,上丘での視覚情報処理が小児の社会行動の発達に重要な役割を担っていると考えられる。近年,この皮質下視覚経路の異常が小児の脳の発達,とりわけ自閉症の病態に深く関わっていることが示唆されている。自閉症は,社会的コミュニケーションの異常を特徴とし,その要因のひとつとして視覚情報処理がうまくできないことが考えられている。最近我々は,ラットの上丘には視覚的注意からの解放に関与するニューロンが存在し(Ngan et al. 2015),上丘の活動を薬理学的に抑制すると,視覚的注意からの解放が阻害されることを見出しており(de Araujo et al. 2015),自閉症児のもう一つの特徴である注意の解放障害に上丘をはじめとする皮質下視覚経路の異常が関係している可能性が示唆されている。以上のように,本講演では,我々がこれまで行ってきた,ニホンザルやラットをモデル動物とする上丘における視覚情報処理メカニズムの研究について紹介する。


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