マウス音声コミュニケーションの生物学的意義と解析手法について

鹿児島大学法文学部人文学科 菅野康太

動物では広く音声コミュニケーションが観察され,個体間のさまざまな情報伝達に用いられている。実験モデルであるマウスでは,超音波の発声(ultrasonic vocalizations, USVs)が用いられており,特に母子間や雌雄間の文脈で顕著に観察される。成熟雄マウスは雌に対し超音波で求愛発声をすることが知られている。2005年,マウス求愛発声に鳥類と類似した歌様構造があることが報告されて以来,マウス求愛発声はコミュニケーションのモデルとして,自閉症関連遺伝子改変マウスなどの様々なモデルで社会性や親和性,言語機能の研究に用いられるようになり,広義の社会性の指標とされるとともに求愛の意義を問い直す意見も出るようになった。

USVsには発声回数,声の種類(音節・シラブル),duration,周波数(声の高さ),リズムなど様々な要素が存在するが,しかし,そもそもこれら要素にどの様な意味が含まれるかといった生物学的意義の検証は乏しい。

今回は,USVs研究の生物言語学的背景や,求愛発声に関する近年の私の研究を紹介し,USVsの生物学的意義について議論する。その後,自閉症を含めた疾患モデル動物における病態モデル行動として,USVsをどのように扱うべきかを議論し,さらに計測法や解析法について,私の共同研究として行なっている近年の研究開発の内容を紹介する。

近年のUSVs研究の動向や,近年の私の研究内容に関しては,以下の日本語総説を参照頂きたい。

菅野康太
「マウス音声コミュニケーションと社会性はどのように評価されるべきか?」
ベビーサイエンス vol. 15, 2015
http://www.crn.or.jp/LABO/BABY/LEARNED/15.html


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