金沢大学動物実験施設における近交系マウスの受精卵凍結作業の現状


金沢大学医学部附属動物実験施設

本多登美夫,二階堂浩子,中村由季子,内本 淳


 当施設では多数の近交系マウスを飼育しており、なかでも基準的な近交系に変異型遺伝子を導入した congenic 系統が多いのが特徴である。これらの系統の維持・管理は労力・経済・技術の面から容易とはいえない。そこで、現在、凍結受精卵による系統保存の作業を進めている。様々な形質について幅広い遺伝的変異をもつ近交系の特性を把握して、マニュアル作りに役立てるために、経験と多少の実験成績の蓄積を行いつつある。最近6カ月間に行った2細胞期胚凍結保存作業について途中経過を報告する。
【材料と方法】
25近交系(7種類の congenic 系、野生由来2近交系を含む)、294頭を用いた。定法により過排卵誘起・採卵・培養によって2細胞期胚を得た。胚はガラス化法によって凍結保存した。膣栓の確認・卵と胚の鏡検を行った。
【結果と考察】
供試個体のうち約1/3に膣栓が認められた。膣栓が認められた(+)個体は野生由来近交系の4頭を除き、全個体から採卵可能であった。膣栓が認められなかった(−)個体の約95%からも卵が得られた。膣栓(+)個体のうち10%の個体からの卵では24時間培養で胚発生がみられなかった。膣栓(−)個体のうち50%以下の個体からの卵で胚発生がみられた。排卵が誘起された全個体のうち約40%から保存可能な胚が得られた。これらの成績には系統差がみられた。ATH、C3H.OH では供試個体の90%以上に膣栓が認められたが、NC/t、NCHc’、NCH2b では全く膣栓が形成されなかった。それにも関わらず90%以上の個体から2細胞期胚が得られた。TF、RG2 では膣栓の有無に関わらず胚発生は皆無であった。遺伝的背景を同じくする近交系( congenic 系群内)の間での結果は類似する傾向があるが、遺伝的背景が異なるcongenic 系群の間では異なる特性を示した。このことから排卵誘起、交尾、受精、膣栓形成、培養条件下での胚発生能に系統差のあることが分かる。
 排卵数、胚発生率、1頭当たりの有効な保存胚の供給能力についても近交系間、congenic 系間で比較した。



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