クロマチンリモデリング因子によるヒト神経前駆細胞の運命決定機構の解析

慶應義塾大学医学部生理学教室
神山 淳

細胞や組織における時間空間的な遺伝子発現は個体発生において重要な役割をしており、近年エピジェネティックな遺伝子発現制御機構の関与が報告されつつある。近年、iPS細胞技術が確立したことにより、ヒト由来の検体に対する実験医学的なアプローチが可能となっている。私たちのグループではエピジェネティックな遺伝子発現制御機構のうちクロマチンリモデリング因子に異常をきたす小児疾患に着目し解析を進めている。

クロマチンリモデリング因子の一つCHD7は多発奇形を引き起こす疾患として知られるCHARGE症候群の原因遺伝子としても知られている。CHD7は神経堤細胞の挙動制御に関して必須の役割を担っており、CHARGE症候群における多奇形の原因の一つと考えられている。しかし、CHD7の標的配列や作用に関しては未知のことが多く、また、CHD7の神経堤細胞以外の細胞における作用は明らかでない。そこで我々はヒト神経前駆細胞におけるCHD7の作用に着目し、解析を行っている。興味深いことにCHD7をヒト神経前駆細胞において機能阻害すると神経前駆細胞としての性質を失い、神経分化能が著しく阻害された。さらにこれらの細胞は神経堤細胞様の性質を獲得していた。そこで我々はChIP-seqによるCHD7の標的領域の同定を試み、CHD7は神経前駆細胞においてH3K27Acが多く集積するエンハンサー領域に結合していることが明らかとなった。CHD7の標的遺伝子の同定からCHD7機能阻害下での神経前駆細胞の性質変化を説明しうる因子としてSOX21やPOU3F2が同定された。また本会では私たちの最近の知見も併せて紹介したい。

参考文献
1. Tabata et al., Stem cell Reports in press
2. Chai et al., Genes Dev (2018) 32(2): 165-180
3. Okuno et al., Elife (2017) pii. E21114
4 Isoda et al., Neuroci Res (2016) 111:18-28


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