シナプス接着因子による小脳神経回路網形成の制御

福信州大学基盤研究支援センター
植村 健

ヒトの脳には1,000億もの神経細胞が存在し、神経細胞同士がシナプスを介して連絡しあい、複雑かつ精巧な神経回路網を形成することで高次脳機能を可能にしている。シナプスの形成と再編は、脳の発達に伴い神経回路が作られる際や記憶学習の際に起こる重要なステップであり、その調節機構の破綻は自閉症、知的障害などの神経発達障害の発症と深く関わることが示唆されている。シナプス形成の分子機構は長年不明であったが、我々はグルタミン酸受容体GluD2が小脳シナプスの形成を制御するメカニズムの解明に取り組み、2010年にシナプス後部のGluD2が分泌タンパク質Cbln1を介してシナプス前部のNeurexinと結合することにより小脳シナプス形成を引き起こすことを発見し、世界に先駆けてシナプス形成の分子メカニズムを明らかにした。現在、哺乳類においては少なくとも十数種類のシナプスオーガナイザーと呼ばれるシナプス接着因子が存在することが明らかになっている。多様なシナプスオーガナイザーの存在は、そのシナプス形成能に加えて、神経回路の特異性や誘導するシナプスの種類の規定など、それぞれが固有の機能を有していることを示唆している。我々は小脳神経回路網形成におけるニューレキシンの役割を明らかにするために、小脳顆粒細胞特異的Neurexinトリプルノックアウトマウス(3つの遺伝子が存在)を作成した。当初の予想に反し、このNeurexinトリプルノックアウトでは小脳顆粒細胞がほぼ完全に消失していた。このことは、Neurexinが小脳顆粒細胞の生存に必須の役割を担うことを示唆しており、Neurexinの新たな分子機能が明らかになりつつある。本講演では、小脳神経回路網形成におけるシナプス接着因子の役割を最近の進展を含めて紹介する。


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