NC系マウスにおける掻痒反応の薬理学的性質


富山医科薬科大学 薬学部 薬品作用学
野島 浩史,倉石 泰


 アトピー性皮膚炎は,近年の生活環境の変化により急激に増加している慢性的な炎症性疾患であり,その患者は慢性的な皮膚病変を伴った耐え難い掻痒感に苦しめられる。痒みによって誘発される掻破行動は皮膚炎の悪化をもたらすので,痒みを抑制することはアトピー性皮膚炎を改善する上で極めて重要である。しかし,アトピー性皮膚炎における痒みの発生機序は解明されておらず,本症の痒みに有効な抗掻痒薬の開発が切望されている。このような現状の中でこの痒みの発生機序を解明するためには動物モデルを用いた検討が必要である。
 NC系マウスは,conventional環境下で飼育すると,自然発症的に掻き動作と皮膚病変を惹起するようになる。この動作は実験者に注意を向けさせることや,オピオイド拮抗薬naltrexoneの皮下投与により抑制され,ヒトの痒みに類似した性質を示すことから,痒みに関連した行動であると考えられる。また,その病変部位への炎症性細胞の著明な浸潤や血中IgE値の著しい増加などアトピー性皮膚炎と類似した症状を示す。これらのことはNC系マウスがアトピー性皮膚炎患者の痒みの発症機序を解明するための有用なモデルであることを示唆する。
 当研究室では,ヒトにおける起痒物質であるsubstance Pを健常マウスの皮内に注射することにより誘発される掻き動作(掻痒反応)が一酸化窒素(NO)合成酵素阻害薬であるL-NAMEやロイコトリエンB4(LTB4)受容体拮抗薬のONO-4057により抑制されることを見出した。本発表では,発症NC系マウスの掻痒反応におけるL-NAMEやONO-4057の実験成績に加えて,NC系マウスの背部皮膚枝神経から記録される活動電位を指標にした薬物効果の結果についても一部示す。NC系マウスにおける掻痒反応の薬理学的性質について検討した結果から,新しい抗掻痒薬のターゲットについて考察する。

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