IL-2 receptor γ鎖ノックアウトマウスにおける生殖性ならびに妊孕性に関する研究


種部恭子、宮崎聡美、齋藤 滋
(富山医科薬科大学・医・産科婦人科学)


 胎児は母体にとって異物であるにもかかわらず、拒絶されない。母児接点の場では胎児に対する免疫寛容が成立していると考えられ、正常な妊娠維持には免疫系の関与が必須である。また、排卵や受精・着床においてもサイトカインの関与を示す報告があり、生殖機能や妊娠現象と免疫系の関与を解明することが、我々の大きな研究課題である。近年、種々のサイトカインそ受容体のノックアウトマウスが作成され、これらの行動学的解析を行うことにより、生殖性・妊孕性に必須のサイトカインや免疫担当細胞などを同定することが可能になった。
 我々は、IL-2 receptorγ鎖(IL-2Rγ)ノックアウト(KO)マウスを用い、生殖性・妊孕性に関する研究を行っている。IL-2Rγ鎖はIL-2, IL-4, IL-7, IL-9, IL-15の受容体成分であり、IL-2RγKOマウスは、臓器形成には大きな異常を認めず出生するが、生後のpentypeとしてT細胞、NK細胞が消失し免疫不全状態となることがこれまでに判明している。妊娠現象や排卵現象には、サイトカインやT細胞、NK細胞の関与が重要であると推察されているが、これらの欠如したIL-2RγKOマウスの生殖性・妊孕性はまだ明らかにされていない。
 そこで、IL-2RγKO雌マウスの性周期を検討したところ、wild typeと比較して規則的な周期を呈するものは少なく(45%)、卵胞発育やエストロゲン分泌にはIL-2Rγが必須ではないが何らかの影響を及ぼている能性が示唆された。
次に、IL-2RγKO雌マウスとIL-2RγKO雄マウスを交配したところ、妊娠はするがその妊娠効率は8.8%と、wild typeと比較し有意に低値であった。妊娠効率が低いことから、排卵から受精・着床の段階でこれらのサイトカイン(IL-2, IL-4, IL-7, IL-9, IL-15)またはT細胞・NK細胞が関与している可能性が示唆された。
 正常な妊娠の維持には、子宮だけに局在する特殊なNK細胞(uterine NK細胞)の存在が重要であることが示唆れている事実、uterine NK欠損マウス(TgE26)では胎盤発育が不良で、脱落膜中のラセン動脈も収縮し、流産・死産が起こる。そこで、IL-2RγKOマウスの子宮局所にuterine NK細胞が存在するか否かを形態的(PAS染色)に検討したところ、着床部位の脱落膜にはwild typeで見られるようなuterine NK細胞がまったく認められなかった。すなわち、IL-2RγKO雌マウスでは子宮局所にNK細胞が存在しないにもかかわらず、妊娠が成立することから、母児接点の場におけuterie NK細胞の役割について再考すべきであることが判明した。今後さらにこの動物を用い、妊娠成立・維持の鍵となるメカニズムを探索していく方針である。


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