卵操作技術と実験動物技術師


須藤カツ子
(東京大学医科学研究所)


 実験動物技術は,医科学の進歩に伴い変遷を繰り返してきた。医科学無くして実験動物の発展はなく,また,実験動物なくしては,医科学の発展はあり得ない。医科学と実験動物は車輪の両輪なのではないだろうか。
 近年の科学は細菌学,ウイルス学の発展にともない実験用動物を捕獲から,実験室内繁殖に変え,腫瘍学の発展に伴い近交系を,免疫学の発展に伴い微生物コントロールされたSPFや無菌動物を誕生させた。1970年代には,遺伝および微生物学的にコントロールされた動物が,近代的な建物の中(温度,湿度,換気,照明の調整された部屋)で繁殖,育成および実験に使用されるようになった。そして,1980年代後半には,分子生物学がめざましく発展し,遺伝子導入動物が誕生した。近年の分子生物学の発展に伴う動物の変化は,当初分子生物学分野の事として実験動物では深く関わることがなかった。そのため,実験動物施設での遺伝子導入動物の取り組みは,著しく遅れてしまった。
 しかし,遺伝子導入動物の作出技術は,実験動物技術師が行うことに何の特殊性も無く,むしろ,技術師としての専門性を確立する最適な技術と言えよう。排卵を誘起し,採卵し,DNAを注入して,偽妊娠動物に移植,生ませて系統としてライン化する。これらはまさに実験動物技術師の技術に他ならない。卵操作技術は21世紀の実験動物技術師の必須技術となるであろう。それらの技術について,我々の施設で実施している状況を紹介し,技術師の方々の参考になれば幸いである。

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