シマリスの脂質代謝特性 ―特性検索の経緯と室内長期飼育経験―


○遠藤順子,伊藤恒賢,神村栄吉,大和田一雄
(山形大学医学部附属動物実験施設)


 ヒトにおいては疫学的にHDL(高比重リポ蛋白)が動脈硬化防御作用を有することが定説となっている。すなわちHDLは末梢組織に蓄積したコレステロールを引き出し,最終的に肝へ輸送する仲介物質と考えられ,その機構が動脈硬化の防御に役立つと考えられている。一方,最近HDL高値を示すにも関わらず角膜混濁や狭心症などの脂質蓄積症状を呈する症例が発見され,従来生体にとって好ましい変化であると考えられてきた高HDL血症もHDL代謝異常のひとつであるとの考え方も提示されている。
 我々はHDLの動態を研究するための動物モデルを検索する目的で,これまで10種11系統の動物血清について調査を行い,シマリスにおいて著しく血清中のHDLが高値を示すことを見いだした。また,リポ蛋白分画に占めるHDLの比率も極めて高いことも明らかにしてきた。
 これらの成績を背景としてシマリスに認められるHDL高値の本態を解明するため,これまでに以下の実験を行ってきた。
 1. HDLの構造蛋白であるアポ蛋白の動態把握。
 2. 脂質転送に関わる各種酵素(LPL,LCAT,CETP)の測定。
 3. ヒトの病態およびCETP遺伝子との比較。
 4. 高脂食負荷による血清脂質成分とリポ蛋白分画の変動。
 5. 降脂質剤投与による血清脂質成分とリポ蛋白分画の変動。
 今回はこれらの成績の概略と検索の経緯について紹介したい。
 従来,HDLの挙動に注目して開発された動物モデルはないことから,高HDL値を示す高脂血症モデルとしてシマリスが有用な研究ツールとなることが期待されている。
 一方,自然界におけるシマリスは繁殖が季節的であり冬眠することが明らかにされているが生殖機構については不明な点が多い。我々は,シマリスの脂質代謝特性を明らかにする一方で,実験に必要な動物数を常時確保するため,シマリスの室内繁殖コロニーの確立をめざして,これまで長期にわたり飼育並びに室内繁殖を試みてきた。数年にわたる試行錯誤を経て,ようやく室内での交配,分娩例を確認したので,室内飼育の工夫や繁殖に至る経緯についても紹介したい。
 本研究は,まだ途についたばかりでパイロットスタディの域を出ないものであるが,諸先生方のご助言・意見等を賜れば幸いである。

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