ラット味蕾の接着分子(カドヘリン)


海藤敏雄
福井県立大学生物資源学部 助教授


 ラット乳頭(茸状・葉状・有郭乳頭)内味蕾の味覚細胞は鼓索神経・舌咽神経から伸びる神経細胞とシナプスを形成して,味刺激の脳への伝達にあずかっている。また,乳頭の味蕾の成長に神経細胞の関与があることが知られている。そこで,我々は乳頭の味蕾周辺のこれら細胞間接触を調べる為に,細胞間接着を司るクラシックカドヘリン分子( E-, P-, N- ) および LI カドヘリンについて,その発現を特異抗体を用いて味蕾凍結切片を染色し調べた。
 乳頭の味蕾は生後5日ごろから成長しはじめ,45日まで細胞数は飽和に達することが知られている。E-cadherin, P-cadherinhaはその間,乳頭の味蕾および非味蕾の上皮組織全般に主に発現していた。また乳頭のコア領域(乳頭の上皮組織で囲まれた神経細胞が多く存在するところ)にも弱く発現していた。一方,N-cadherinは初期には上皮組織全般の基底部に一層,発現しており45日には味蕾を取り囲むように発現が増加する。このことは神経軸索の成長と誘導に関与しているとも考えられる。また乳頭のコア領域にも弱く発現していた。これらクラッシクカドヘリンに比べて,LI-cadherinは肝臓,小腸に発現し,細胞質領域が短く,カテニンが結合していないノンクラシックカドヘリンに属するが,乳頭では生後5日ごろから45日まで,その発現は味蕾に集中して局在していた。また乳頭のコア領域にも弱く発現していた。さらにGustducinの抗体を用いた二重染色では,成熟体ラットの味蕾において両者が共発現していた。このLI-cadherinの各乳頭における味蕾細胞での局在した持続的発現およびGustducinとの共発現は,シナプス形成や味蕾細胞の成長過程などの,味蕾細胞と神経細胞との相互作用に重要な役割を果たしていると思われる。

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