大学発の発明をもとに商品化されたHVJエンベロープベクター


宮田 敬三
石原産業株式会社 中央研究所 研究主管


ゲノム解析の終了に伴い、科学者の興味は遺伝子の機能解析にシフトしつつある。バイオインフォマティクスやDNAチップは解析のコア技術であるが、予測された遺伝子の機能を細胞レベル、動物個体レベルで検証する過程では、効率的な遺伝子導入ベクターが必要となる。 HVJエンベロープ (HVJ-E) ベクターは、HVJ (Hemagglutinating Virus of Japan; センダイウイルス) の細胞融合活性を担う膜成分 (エンベロープタンパク質) の活性を残したまま、ウイルスの複製能を完全に不活化した全く新しいタイプの非ウイルスベクターである。 HVJ-Eの基礎技術は、大阪大学の金田安史教授 (遺伝子治療学) によって開発された。他に類を見ない斬新な導入特性を持つそのベクターの開発は、大阪大学発のベンチャーであるアンジェスMG に継承され、商業生産に向けた製造技術が確立された。大阪大学との研究交流を重ねてきた石原産業は、この画期的な技術に着目し、アンジェスMGと開発・商業化契約を結んで商品化開発に取り組み、2002年4月、高性能トランスフェクションキット (GenomONE) として発売するに至った。 このように、HVJ-Eベクターは、大学で培われた基礎研究の成果を基に民間企業との協同のもとで商品化された成功例の一つとして注目されている。発売から1年が経過した同ベクターは、日本発、世界初のユニークなツールとして国内の多くの研究者に使用され、その応用事例が蓄積されつつある (文献参照)。 本稿では、産学協同の技術開発・商品化の「成功の鍵」を探るとともに、HVJ-Eベクターの導入原理やin vitroおよびin vivoのアプリケーション (遺伝子、アンチセンスオリゴ、siRNA、タンパク質の導入事例) について概説する。

<参考文献>
・Y. Kaneda et al.: Molecular Therapy, 6 (2), 219-226 (2002).
・Y. Itoh, Y. Kawamata et al. : Nature, 422 (13), 173-176 (2003).
・T. Ishii, K. Ohnuma et al. : Journal of Immunology, 170 (1), 3653-3661 (2003).
・加藤雅也: BioClinica, 17, 614-619 (2002)
・加藤文法ほか: Medical Science Digest (MSD), 29, 122-125 (2003)
・GenomONE専用ホームページ: http://www.iskweb.co.jp/hvj-e


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