卵巣摘出モデルラット及びマウスを用いる漢薬“Dioscorea spongiosa”の抗骨粗鬆活性の研究


殷 軍1、手塚康弘1、幸田恭治1、Tran Le Quan1、宮原龍郎2、門田重利1
1富山医科薬科大学和漢薬研究所化学応用分野、2富山医科薬科大学薬学部


 骨粗鬆症とは骨量の低下と骨の微細構造の劣化が特徴的で、その結果、骨の脆弱性が増加し、骨折を来たしやすい全身性の骨疾患である、高齢化の進む世界において骨粗鬆症患者は急速に増加しており、その高額な治療費や寝たきりを引き起こす事から大きな経済的、社会的負担にもなっている。また、患者数が最も多い骨粗鬆症は閉経後骨粗鬆症で、エストロゲンが不足している特徴がある。これに対する治療薬の研究開発も活発に行われているものの、副作用や有効性の面で必ずしも満足できる薬剤は無く、有効な骨形成促進剤も無いのが現状である。
 ところで、中国医学においては、骨粗鬆症の症状は“腎虚”から生じる“骨痿”や“骨痺”と同じだと考えられている。そこで、30種の補腎薬及び抗骨痿薬として用いられている生薬のエキスについて、骨芽細胞増殖を促進する薬物を探索した。さらに、活性を示したエキスについて、破骨細胞の形成活性についても検討した。その結果、Dioscorea spongiosaの水エキスが両方の作用において強い活性を示した。このエキスをDiaionカラムクロマトで分離したところ、90% EtOHフラクションが最も強く骨芽細胞増殖を促進し、破骨細胞形成を抑制した。さらに、このフラクションをカラムクロマトグラフィやプレパラティブTLCを組み合わせて分離を行い、28種の成分を単離した。その中でmethyl protodioscinが主成分であり、強いin vitro活性を示す事が明らかとなった。
 次に、閉経後骨粗鬆症モデルである両側卵巣摘出(OVX)ラット及びマウスを用いて、Dioscorea spongiosaの90% EtOHフラクション及びその主成分であるmethyl protodioscinの抗骨粗鬆症活性を検討した。両側卵巣摘出ラット又はマウスでは手術8週間後に、閉経後骨粗鬆症と同様の体重増加や子宮萎縮が見られ、脛骨や大腿骨の骨量、骨密度及び骨強度も下降した。卵巣摘出2週後のラットにDioscorea spongiosaの90%EtOHフラクション(50又は100 mg/kg/d)を6週間経口投与し、PQCT(末梢定量的CT法)による測定を行ったところ、ラットの脛骨の全骨、皮質骨、海面骨の骨量、骨密度及び抗ねじれ強度がOVXグループに比べ90% EtOHフラクション投与グループには顕著な改善効果が認められた。さらに卵巣摘出2週後マウスにmethyl protodioscin(20又は50 mg/kg/d)を6週間経口投与すると、マウスの脛骨及び大腿骨の骨量、骨密度及び脛骨抗ねじれ強度の下降を抑制した。しかも、90% EtOHフラクションとmethyl protodioscinはどちらも子宮に対する副作用を示さなかった。
 上記の結果により、漢薬Dioscorea spongiosa及び主成分のmethyl protodioscinは骨粗鬆症に対する予防及び治療薬としての可能性が示唆された。

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