マウスモデルを用いた西ナイルウイルス感受性遺伝子の同定


真下 知士
京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設


2002年夏,アフリカ北部ナイル川流域の風土病として知られていた西(ウエスト)ナイル熱がアメリカ全土で猛威をふるった。米疾病対策センター(CDC)によると2002年で3873人の感染者が確認され,そのうち246人が死亡した。2005年の今夏も1800人以上の感染者が依然報告されており,今年は特にカリフォルニアなどのアメリカ西海岸で被害が大きかった。

そこで我々は,ウエストウイルス感染に対する宿主側免疫防御機構を解明するため,マウスモデルを確立した。1998年イスラエルに発生したウエストナイルウイルス(1999年ニューヨークで発生したウイルスとは,わずか0.3%のアミノ酸配列の違いしかない)をBALB/cやC57BL/6のような実験マウス系統に腹腔内感染させると,全例が感染後10日以内に脳炎を発症し死亡する。それに対し,野生由来近交系マウスでは死亡せずに抵抗性を示す。このマウスモデルを用いて我々はポジショナルクローニング法により,ウエストナイルウイルス抵抗性を支配する遺伝子として2'-5'-oligoadenylate synthetase (2'-5'-OAS) を同定した。また大規模ゲノムシークエンスおよびコンピュータプログラムを用いた詳細なゲノム構造解析により,マウスでは少なくとも10個の2'-5'-OAS遺伝子が,クラスターとして存在することも明らかとなった。個々の遺伝子機能およびウイルス感染に対する防御メカニズムについて,最近のデータを加えて検討したい。

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