マウスにおける薬物代謝酵素の発現調節:メス特異的P450分子種の解析


佐久間勉,ジャルカムジョン・カノッワン,坡下真大,北島佳織,一場千尋,安達桂,小黒美樹,松下将志,○根本信雄
富山大学 薬学部 毒性学研究室


シトクロムP450(P450)は主要な薬物代謝酵素であり,その活性は薬効や副作用の発現に大きく関わっている。それゆえ,薬物代謝酵素の個人差は,テーラーメイド医療における重要な検討項目とされ,SNPsなどが盛んに研究されている。一方,P450には男女で同程度発現しているものがあると同時に,発現に性差があるとされるヒト主要P450分子種(CYP3A4, 1A2他)も存在する。そのため,性差という観点からP450の発現調節を研究する必要性も改めて認識されてきた。そこで,当研究室ではヒトに比べより顕著な性差が観察されるマウスの分子種をモデルとして,性差の発現機構の解析を行っている。

CYP2B9, 3A41, 3A44は,C57BL/6マウス成獣肝においてメス特異的に発現する分子種であるが,それら分子種はGH分泌の雌雄差によって発現に性差が現れることが明らかになった。CYP2B9とCYP3A41/44では調節機序に違いがあり,前者はオス型GH分泌による発現抑制が,後者はオス型による抑制と共にメス型分泌よる発現促進効果が性特異的発現を引き起こしていることが明らかになった。また,それら遺伝子の発現は副腎皮質ホルモンによる調節も受けていることが判った。3分子種は性ホルモンによっても調節を受けていることが明らかにされたが,性ホルモンの効果は脳下垂体からのGH分泌に影響を与える形での,間接的調節と考えられた。

常在発現の性特異性や性ホルモンによる誘導性には,マウスの系統差も観察され,BALB/cマウスではCYP3A41発現の性差が小さく,DBA/2マウスではエストラジオールによるCYP2B9の誘導性がC57BL/6マウスに比べ低いことも明らかにし,ヒトへの外挿に際しては系統差も考慮に入れる必要があることを明らかにした。

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