トリインフルエンザの流行拡大と新型インフルエンザ対策


板村 繁之
国立感染症研究所・ウイルス第3部・第1室


2003年末にアジア地域で始まった高病原性トリインフルエンザA/H5N1ウイルスのヒト感染は,イラク,トルコまでに拡大し現在までとどまる気配を見せない。今までのところ,ほとんどは感染したトリからヒトへ伝播する感染経路に限局されているが,いつヒトからヒトへの感染様式に変化するのか現在最も注意して監視されている点である。本来インフルエンザウイルスはトリを自然宿主としている。ヒトのインフルエンザの起源もやはりトリに由来し,新しい宿主のヒトに導入されて以後ヒトで流行を繰り返して維持されている。この最初にトリからヒトに今までにヒトが経験したことのない新しい抗原性のウイルス出現を,新型インフルエンザの出現という。20世紀に入って人類は3回の新型ウイルスによる大流行(パンデミック)を経験している。特に1918年に出現したスペインかぜと呼ばれる大流行では世界中で4,000万人以上の犠牲者を出したことでよく知られている。今日のヒトの移動手段の発展やその規模を考えると,スペインかぜ発生当時より格段に早い速度で世界中に拡大していくことが予想される。今回の講演では,インフルエンザウイルスがトリからヒトへの宿主の壁をどのように乗り越えて流行するのか,すなわち新型インフルエンザ出現の機構について現在までに理解されていることを紹介する。また,現在のトリインフルエンザA/H5N1ウイルスの流行の現状とその対策について解説するとともに,新型インフルエンザに対してどのような対策が検討され実施されているのかについて紹介したい。

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