抗体遺伝子座の多様性を作る遺伝子AID


村松正道
金沢大学大学院医学系研究科情報伝達遺伝学


多種多様な病原体を排除するためBリンパ球は抗体分子を多様化させ、あらゆる病原体に対応している。抗体分子は抗原分子を認識する可変領域とその抗原を処理する定常領域から構成されている。抗原刺激後、可変領域はsomatic hypermutation(SHM)によって多様性が増大される。SHMは可変領域エキソンに点突然変異を導入する反応で、抗体の親和性成熟の原動力となっている。一方、定常領域はクラススイッチ組換え(class switch recombination, CSR)により、その抗体分子の排除様式や輸送法が多様化される。Bリンパ球は、この反応により抗原特異性を変えないままIgGやIgAクラスを産生できるようになる。言い換えればBリンパ球は、抗体遺伝子座を記憶媒体として、より有用な抗体遺伝子情報をCSRとSHMという手段で記憶しているといえる。

CSRとSHMによって抗体遺伝子座は、その抗原をより良く排除できるクラスと抗原認識能力を獲得するが、活性化Bリンパ球特異的遺伝子AIDはこの二つの反応の要となる遺伝子である。それ故にAIDの機能障害はCSRとSHMの障害につながり、結果的に抗原刺激後に起こる抗体遺伝子の多様性は起こらなくなる。実際、クラススイッチ欠損症である高IgM症候群II型の原因はAID遺伝子座の変異によることがわかっている。またCSRやSHMの制御不良がゲノム遺伝子に変異を入れ、その事がリンパ腫の一因と考えられており、AIDの分子機能の解明が急務である。本発表ではAIDが司る抗体遺伝子の多様性獲得機構と、これまでにわかっているAIDの分子機能を概説する。またAIDの活性制御異常と疾患との関連についても議論したい。
北陸実験動物研究会ホームページに戻る