細胞周期に依存した分化のはじまり


富山大学生命科学先端研究センター動物資源開発分野
大塚 哲

哺乳類の発生において最初の分化は、マウスの場合、3.5日胚に見られる。それまで均一であった細胞集団が、3.5日胚では多能性細胞である内部細胞塊と、卵黄嚢の基となる原始内胚葉、および胎盤の基となる栄養外胚葉の3種類に区別されるようになる。マウス2.5日胚において、Oct3/4およびCdx2のdouble positiveな細胞集団から、single positiveな多能性細胞(Oct3/4-positive)および栄養外胚葉 (Cdx2-positive)の2種類の異なった細胞種が出現する。その後少し遅れて、NanogおよびGATA4により内部細胞塊および原始内胚葉が運命付けられる。このような発生過程での未分化および分化マーカーの共存した状態からは、分化細胞だけでなく未分化な細胞も生じる。このような共存状態は言い換えれば分化の始まりと言えるが、この状態を説明するメカニズムは知られていない。

今回のセミナーではマウスの初期発生のモデル系としてマウス胚性幹細胞(ES細胞)を用いて、特に細胞周期制御と細胞分化の関連性について解析した結果を報告したい。細胞周期同調を行ったES細胞のG1期ではgata-4, -6およびcdx2などの分化に関連した遺伝子群の発現増加が観察され、一方でoct3/4やnanogといった未分化に必須な遺伝子には転写抑制が見られた。DNA microarrayを用いた網羅的な遺伝子発現解析も同様な結果を示した。そこで、未分化細胞周期同調と同時にGATA6およびCdx2活性を人為的にON/OFFしてみたところ、G1期に位置する細胞のみがこれらの分化誘導に対して高感受性であることが明らかとなった。この一連の結果から、我々は上記の共存状態は細胞周期の時期を示していると考えており、ここでは特にG1期を細胞分化の起点とするモデルを提案し、それについて議論したいと考えている。


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