日本産モグラ類の生態、行動、生物地理、寄生蠕虫、防除および保全


富山大院・理工・生物圏環境科学・野生動物保全学
横畑泰志

日本には8種のモグラ科動物が見られるが、演者はそのうち7種に関する研究を学生や共同研究者たちとともに様々な角度から行ってきた。それらを手短かに紹介する。

生態:本州産のアズマモグラMogera imaizumii およびコウベモグラM. wogura の博物館収蔵標本多数を上顎臼歯の摩耗段階などにより齢推定し、個体群の齢構成を検討した。金沢平野のこれら2種の分布を調査し、種間競合関係に関する知見を得た。宮城県金華山島で捕殺したアズマモグラの胃内容物を調査し、他地域の例と比較した。富山県および岐阜県でアズマモグラおよびミズラモグラ Euroscaptor mizura の巣を発掘した。

行動:農地などのアズマモグラに電波発信器を装着し、行動圏の規模や個体間関係に関する知見を得た。ヒミズ Urotrichus talpoides とアズマモグラについて金網トンネルを用いた飼育下で観察や行動学的実験を行い、活動時間や個体間関係に関する知見を得た。

生物地理:静岡県産の更新世のモグラの頭骨を多数の現生個体の標本の計測値から作出した判別関数によって同定し、西日本から分布を広げてきているコウベモグラであるとした。これにより、この種が古くから本州中部に分布していた可能性がある。

寄生蠕虫:日本各地で捕獲された上記4種およびサドモグラ M. tokudae、エチゴモグラ M. etigo 計約 400 頭の消化管内寄生蠕虫群集を調査し、新種の線虫2種を記載するとともに、分布や感染率、感染数を宿主の生態などとの関連性に着目して分析した。

防除:岐阜県内の業者が市販している、生薬抽出残渣を含んだ堆肥にアズマモグラに対する忌避効果があることを、野外での電波発信器による追跡と室内実験で明らかにした。

保全:尖閣諸島魚釣島にのみ分布するセンカクモグラ M. uchidai などの多数の固有動植物は、爆発的に増加した野生化ヤギ Capra aegarus によって絶滅の危機に曝されている。この問題に対して、リモートセンシングを用いた現状把握の試みを続けている。


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