オレキシンによる睡眠・覚醒の安定化機構と行動制御


金沢大学医薬保健研究域・医学系 分子神経科学・統合生理学
櫻井 武

私たちは、新規神経ペプチドの同定とその生理的役割を目指して研究を行っている。オレキシンAとオレキシンBは視床下部外側野に局在し、摂食行動を制御する神経ペプチドとして見いだされた。その後、オレキシンの欠損が睡眠障害、ナルコレプシーの病因であることが明らかにされ、オレキシンは覚醒・睡眠状態の維持に重要であることが示された。近年、われわれは、遺伝子改変マウスを利用したオレキシン産生神経の電気生理学的解析と組織学的な解析により入力系を明らかにするとともに、オレキシン産生神経に入力する上流の神経細胞群を同定してきた。オレキシン産生神経の入出力系の解明および、各種遺伝子改変マウスをもちいた解析により、オレキシン系と大脳辺縁系、摂食行動の制御系、覚醒制御システムとの相互の関係が明らかになり、オレキシン産生神経は情動やエネルギーバランスに応じ、睡眠・覚醒を適切に制御し、行動を統合的に制御する機能を担うことが明らかになってきた。オレキシン産生神経は、生体の内外の環境に応じて適切な覚醒を維持し、行動を支える機能をもっている。病的状態では摂食異常や不眠症などにも関与していると思われる。現在、オレキシン拮抗薬が優れた睡眠導入薬として期待されている。その他にもオレキシン系に作用する薬物(拮抗薬や刺激薬)が不眠症や過眠症、あるいは肥満など各種病態の治療に役立つことが期待される。本セミナーでは、オレキシンの同定から、その機能の解明に向けて行ってきた研究について紹介したい。

参考文献

  • Sakurai T. Nat. Rev. Neurosci. 8, 171-181, 2007; Sakurai T, et al. Neuron 46(2):297-308,2005; Yamanaka A. et al. Neuron 38:701-713, 2003
  • Hara J, et al. Neuron 30:345-354, 2001; Chemelli, et al. Cell 98:437-451, 1999; 92:573-585, 1998; Sakurai T, et. al. Cell 92:573-585, 1998;Matsuki et al. Proc. Natl. Acad., Sci., USA., 106(11), 4459-64, 2009

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