SHRSPにおける脳卒中予防薬の検索
富山県薬事研究所 主任研究員 松原利行
脳卒中易発性高血圧ラット(Stroke-Prone Spontaneously Hypertensive Rat, SHRSP)は、急激かつ高度な高血圧進展に伴う心血管系疾患の病態モデルとして有用である。本動物は京都大学の動物実験センターで飼育されていたWistar系ラット(WKY)の中から選択交配で1963年岡本・青木により分離されたSHR(高血圧自然発症ラット)から、さらに急速な高血圧進展により脳卒中病変を発生させる亜系として1974年に岡本・家森・永岡により分離された。ごの病態動物は、雄性では25週令以降ほぼ100%の高率で脳血管障害(脳出血、脳梗塞)を併発し、平均寿命が40週程度の短命な動物である(雌性の平均寿命は50週程度)。我々は、1988年に近畿大学より分与を受けたこの病態動物を用いて種々の合成薬およぴ漢方薬の脳卒中予防効果について検討しているが、今回、本動物の特徴について紹介しながら顕著な延命効果が得られた薬剤についても報告する。
I.SHRSPの特徴について
- 血圧:5週令(♂)で140mmHg、10週令で200mmHg、25週令で280mmHg
- 体重:WKYに比べて小さい。25週令(♂):SHRSP 300g、WKY 400g
- 脳卒中発作時の主な症状:一方の前肢の持ち上げ運動、歩行異常、過敏、自発運動量の減少、立毛、体重減少、摂餌量減少など。
- 特徴的な組織変化:脳軟化、脳出血、血管壊死、心肥大、腎硬化症、腸管膜動脈の結節性多発性血管炎、精巣萎縮など。
II.各種薬剤の脳卒中予防効果
食塩負荷による脳卒中発症促進効果を検討するとともに、ACE阻害剤など西洋薬、釣藤散、五苓散などの和漢薬について血圧下降作用および延命作用を検討した。
【方法】
脳卒中予防効果の実験に関しては、当研究所において繁殖飼育した10週令前後の雄性SHRSPに1%食塩水または水道水を与え、被験体を粉末飼料に添加し死亡するまで投与した。実験期間中、摂餌量、飲水量、体重を週1回測定するとともに、脳卒中発症日および死亡日を記録した。血圧は、小動物自動血圧測定装置(ウエダ製作所、UR-5000)を用いてtail cuff法により測定した。
【結果】
1.食塩負荷の影響:
1%食塩負荷により、体重にほとんど影響せずに血圧上昇が促進するとともに水道水飼育に比較して生存期間が1/2以下に短縮されることが明らかとなった。
2.脳卒中予防効果:
ACE阻害剤のカプトプリルは極めて顕著に生存期間を延長し、食塩負荷群の3.5倍、水道水飼育群よりさらに100日も長期に生存し著効を示した。また、和漢薬でも釣藤散および五苓散の非加熱粉末投与群で明らかな延命効果が認められた。五苓散は5種類の生薬から成るが、構成生薬の一抜き処方投与により延命効果には白朮が関与していることが明らかとなった。
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