マウスモデル研究で明らかになってきた多様なCOX-2の機能
金沢大学がん研究所腫瘍遺伝学 大島 浩子
COX-2は、アラキドン酸を基質としてプロスタグランジンH2(PGH2)を合成する誘導型の酵素で、炎症反応やがん組織で発現して中心的な役割を果たすことが明らかになってきた。PGH2は組織特異的変換酵素によりPGE2をはじめさまざまなプロスタノイドに変換されて、多様な生理的および病理的な作用を示す。私たちはこれまでに、マウスモデルを使って、いろいろな局面でのCOX-2の役割について検討した。
1. 重力負荷とCOX-2:
宇宙に長期滞在すると骨成分が減少することが知られており、その原因として重力に起因した「ずり刺激」によるCOX-2発現誘導の抑制が指摘されている。そこで、重力刺激による各種臓器でのCOX-2発現への影響を、JAXAの旋回腕型加重力負荷装置を使って解析した。その結果、マウスに2Gおよび3G刺激(宇宙飛行士が大気圏を突破するときに受ける程度の刺激)を与えると心臓と脳で顕著なCOX-2発現誘導が観察された。COX-2には血管拡張や血管新生作用があるため、Gがかかった時の酸素要求に対する予防的な生体反応と考えられた。
2. 糖尿病とCOX-2:
疫学的に慢性炎症が糖尿病と関係することが知られており糖尿病モデルマウスの膵臓ではCOX-2産生が誘導される事も報告された。そこで、膵島β細胞でCOX-2とその下流でPGE2を合成する酵素のmPGES-1を同時に発現するRIP-C2mEトランスジェニックマウスを作製した。RIP-C2mEマウスの膵島は正常に発生して形成されるが、やがてβ細胞が消失して血糖値も著しく上昇し、強い糖尿病症状を呈するようになった。この結果から、PGE2シグナル亢進がβ細胞の積極的な破壊かまたは再生を抑制している可能性が考えられた。
3. がんとCOX-2
ほとんどのがん組織でCOX-2が誘導されている。COX-2遺伝子ノックアウトマウスを作製すると、腸管腫瘍発生が顕著に抑制されるので、発がん過程でとても重要な役割を果たしていると考えられる。マウスの胃粘膜で発がんの原因となるWntシグナルを活性化しても腫瘍は発生しないが、同時にCOX-2とmPGES-1を発現させると、ヒトの胃がんに類似した腫瘍が自然発生する。未だ、COX-2/PGE2経路による発がん促進機序には不明な点が多く残っているが、マウスモデルの解析からPGE2シグナルがマクロファージ浸潤をともなう炎症反応を引き起こし、がんの微小環境の形成に関与していることなどが明らかになってきた。
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