慢性骨髄性白血病マウスモデルを用いた 白血病幹細胞の維持機構の解析
金沢大学がん研究所 がん幹細胞研究プログラム 遺伝子染色体構築研究分野 仲 一仁
がん幹細胞は多様ながん細胞の供給源となる細胞であり,抗がん剤や放射線治療後のがん幹細胞の残存はがんの再発の原因となる.従って,がん幹細胞はがんを根治するための重要な標的細胞に位置づけられている.慢性骨髄性白血病(CML)は造血幹細胞を発症起源とする骨髄増殖性疾患であり,活性化型チロシンキナーゼBCR-ABLの発現によって発症することが知られている.チロシンキナーゼ阻害剤イマチニブの開発はCML患者の治療を著しく改善したが,イマチニブ治療後もCML細胞の供給源となる白血病幹細胞が残存してCMLの再発を引き起こす.今回,我々はCML様骨髄増殖性疾患のマウスモデルを用い,フォークヘッドO型転写因子(Foxo3a)がCML の白血病幹細胞のイマチニブ抵抗性に必須な役割を担うことを見いだした.
これまでのCML細胞株を用いた報告において,FOXOは増殖抑制・アポトーシス誘導に関わっており,BCR-ABLはFOXOを細胞核から細胞質へと排出して転写活性を抑制し,CML細胞の増殖を引き起こすと考えられてきた.しかし,白血病幹細胞では,BCR-ABLが発現しているにもかかわらず,Foxo3aの核局在を示す細胞が多数存在していることが判明した.そこで,白血病幹細胞の維持におけるFoxo3aの役割を解明するため,Foxo3a欠損マウス由来の白血病幹細胞の連続移植実験を行った.その結果, Foxo3aの欠損は白血病幹細胞の自己複製能力を著しく低下させることが明らかとなった.さらに,白血病幹細胞を移植したマウスに対してイマチニブの投与を行ったところ,Foxo3a欠損はイマチニブ抵抗性白血病幹細胞に対する抑制効果を有していることが明らかとなった.従って,Foxo3aは白血病幹細胞の長期間の維持,並びにイマチニブ抵抗性に必須な役割を担うと考えられる.
以上の結果から,FOXOは白血病幹細胞と非白血病幹細胞との間での異なる制御機構,いわゆる “幹細胞パラドックス”の一端を担っていると考えられる.今後,非白血病細胞に対するイマチニブ治療に加え,白血病幹細胞を排除する分子標的治療薬を研究することで,CML医療の向上につながる新しい治療法の開発が期待される.
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