遺伝子改変マウスから見いだされた骨格異常を伴う新規トランスポーター病とその分子病態解析
東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 実験動物研究施設 古市 達哉
最新のOMIMデータベースによると、単一遺伝病として登録された4610疾患のうちの、1777疾患 (約39%) において未だ責任遺伝子が同定されていない。特に周産期致死性の疾患では症例数が極めて少なく、同定が困難なケースが多い。このような疾患では、その疾患と類似の表現型を示す遺伝子改変マウスを見つけ出し、責任遺伝子の候補を選抜するアプローチが有効である。我々はこのアプローチによって、2つの骨格異常を伴う疾患の責任遺伝子の同定に成功した。同定した2つの遺伝子は共にトランスポーターをコードしていた。
SLC35D1は小胞体膜上に発現する糖ヌクレオチド輸送体であり、コンドロイチン硫酸合成の際、基質として用いられるUDP-GlcUA、UDP-GalNAcを細胞質から小胞体内腔へ輸送する。Slc35d1欠損マウスは著しい骨格形成異常を示し、胎生致死となり、軟骨組織では細胞外マトリックスの著減、コンドロイチン硫酸の鎖長の短縮等が観察された。Slc35d1欠損マウスの骨格および組織学的異常は、ヒトの蝸牛様骨盤異形成症(SBD)の病態と類似していた。そこでSBDと診断された7症例のゲノムDNAを収集し、SLC35D1遺伝子の変異を調べた結果、5症例の両アレルに変異を同定した。SBD症例に同定されたSLC35D1変異体の糖ヌクレオチド輸送能はすべて消失または著減しており、SBDの責任遺伝子はSLC35D1であることが証明された。
ZIP13/SLC39A13はゴルジ体膜上に発現する亜鉛トランスポーターであり、亜鉛をゴルジ体内腔から細胞質へ輸送する。Zip13欠損マウスは、コラーゲン繊維の異常を伴う皮膚の脆弱化、骨量減少、脊椎異形成、歯牙形等の多様な表現型を示した。この病態はヒトのEhlers-Danlos症候群 (EDS)と類似しており、EDSの1家系のホモ接合体マッピングにより特定された責任領域の中にZIP13遺伝子が存在していた。この家系のEDS症例におけるZIP13遺伝子の変異を調べた結果、ホモ接合のミスセンス変異(c.221G>A、p. G74D)を同定した。機能解析の結果、ZIP13はBMP/TGF-βシグナル伝達に関わっており、p.G74D変異体はこのシグナル伝達に関与出来ない、すなわち機能消失型変異体であることが示された。以上の結果から、EDSの責任遺伝子はZIP13であることが証明された。
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