Rap1シグナルによる免疫動態と増殖応答の制御

関西学院大学理工学部 生命科学科
片桐 晃子

私たちの体は,病原体の侵入に対し,免疫細胞のうち見張り役の樹状細胞が侵入を察知し,これを受けて実行部隊であるリンパ球,好中球などが攻撃・排除する。このような免疫システムにおいて,実行部隊の代表であるリンパ球は,樹状細胞からの情報を受け取るため全身に散在するリンパ節を巡回している。従って,免疫システムは,活発な免疫細胞の生体内移動が要となっており,これらは,時空間的に厳密に制御されている。このような免疫細胞による動的監視システムの基盤となっているのが,インテグリンという接着分子を介する接着・遊走である。演者はRap1-RAPL-Mst1という3種類のタンパク質分子が連続して活性化されて,リンパ球などの接着・遊走のスイッチをいれること,すなわち,これらは,リンパ球の動態を調節する主要なシグナルであることを見出した。また,RAPL及びMst1は近年,様々なヒトの癌でその発現が低下していることが報告され,重要な癌抑制遺伝子として注目されている。RAPL或いはMst1を持っていないマウスは,リンパ球の増殖応答が亢進し,ループス腎炎などの自己免疫疾患やリンパ腫を発症することがわかった。リンパ球の接着と増殖は連携して制御されており,両者に関与する分子の破綻は,リンパ球増殖性疾患の発症につながることが明らかとなった。これらについて説明したい。

(参考論文)
Katagiri K, Ueda Y, Tomiyama T, Yasuda K, Toda Y, Ikehara S, Nakayama I. K and Kinashi T. Deficiency of Rap1-GTP binding protein RAPL causes lymphoproliferative disorders through the mislocalization of cyclin-dependent kinase inhibitor p27kip1. Immunity 34:24-38, 2011

Katagiri K, Imamura M, Kinashi T. Spatiotemporal regulation of the kinase Mst1 by binding protein RAPL is critical for lymphocyte polarity and adhesion. Nature Immunology 7:919-28, 2006

Katagiri K, Ohnishi N, Kabashima K, Iyoda T, Takeda N, Shinkai Y, Inaba K, Kinashi T.Crucial functions of the Rap1 effector molecule RAPL in lymphocyte and dendritic cell trafficking. Nature Immunology 5:1045-51, 2004


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