遺伝子改変動物を用いたスフィンゴ糖脂質の機能解析
麻布大学獣医学部獣医学科・生化学研究室 山下 匡
ガングリオシドはシアル酸を含むスフィンゴ糖脂質であり、脊椎動物の脳神経系に豊富に存在し、個体発生や細胞分化に関与することが明らかになった。特に糖鎖合成系酵素ノックアウトマウスの解析から糖脂質の糖鎖が神経系の維持に必須であることが示された。
一方、ガングリオシドの一分子種であるGM3に注目した場合、GM3ノックアウトマウスは正常に生まれ外見的な異常は認められなかった。しかしながら、糖負荷実験においては、投与後速やかな血糖値の低下が観察され、ノックアウトマウスにおけるインスリンに対する感受性の顕著な上昇が観察された。その理由としてインスリンの標的臓器の一つである骨格筋においてインスリンレセプターの高リン酸化に起因することが証明された。
同じGM3ノックアウトマウスを用いた行動解析の結果、異常行動が観察された。また、免疫系の異常も観察され、関節炎を惹起した場合、発症の有為な増加が観察された。
さらに、我々はマウス繊維芽細胞 (mouse embryonic fibroblast: MEF) を樹立し、ガングリオシドによる細胞増殖シグナルに関して解析をおこなった。GM3ノックアウトマウスから樹立されたMEFにおいて高い増殖能が観察され、これがRas/Raf/MEK/ERKを介した現象であることがわかった。
また、コンディショナルノックアウトを用いた研究では、神経特異的に症状を呈するマウスを見いだしたほか、軟骨におけるスフィンゴ脂質の欠損が変形性関節炎を誘発することを見いだした。
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