フェレットを用いた脳神経系の遺伝学的解析

ヒトを含む高等哺乳動物の脳神経系には脳回、outer subventricular zone (OSVZ)、inner fiber layer (IFL) や発達した視覚神経系などの特徴的な神経構築が存在している。従来、これらの神経構築について解剖学的および生理学的解析は進んできたが、分子生物学的解析は未だに遅れている。その理由として、マウスではこれらの神経構築が発達していないこと、さらに高等哺乳動物を用いた分子遺伝学的解析が困難であったことが挙げられる。我々はこれまで哺乳類食肉目に属するフェレットに着目し、高等哺乳動物を用いた遺伝子単離技術および遺伝子機能解析技術の確立を独自に進めてきた。これらの技術を用いて高等哺乳動物の視覚神経系に特徴的なP細胞に特異的に発現する遺伝子をスクリーニングし、P細胞選択的遺伝子の同定に初めて成功した(Cerebral Cortex 2013)。また我々は高等哺乳動物に対して子宮内電気穿孔法を応用することに初めて成功し、高等哺乳動物における迅速かつ効率の良い遺伝子機能解析技術の確立を行った(Molecular Brain 2012, Biology Open 2013)。これによりフェレット大脳皮質において浅層から深層まで幅広くの神経細胞に遺伝子導入が可能となった。さらにこの技術を用いて、これまで不明であったIFLの由来を明らかにすることに成功した(Biology Open 2013)。我々の技術は、高等哺乳動物に特徴的な神経構築の形成過程、生理機能および機能異常に基づく病態の解析に有用であることが期待される。