ヒト脳特異的な遺伝子発現制御解明における ヒト染色体工学の応用
金沢大学学際科学実験センターゲノム機能解析分野
堀家慎一
近年の全ゲノム解析より,自閉症や統合失調症といった神経疾患の原因遺伝子が同定され,それぞれの遺伝子欠損マウスが作出されることでその発症機序の解明が著しく進んでいる。しかしながら,ヒトとマウスの脳における遺伝子発現様式の違いにより,必ずしもヒトとマウスで一致した実験結果が得られておらず,高次脳神経系における遺伝子発現制御を解析する手法が求められている。そこで,我々は独自のヒト染色体を様々な細胞株に移入する技術を発展させ,自閉症などの神経発達障害の発症機序の解明に取り組んでいる。
自閉症は,「言語発達の遅れ」「コミュニケーション能力の障害」「反復的で常同的な行動」を特徴とした広汎性神経発達障害である。自閉症の有病率は,88人に1人といわれ,その男女比は5:1とされる。社会・環境と遺伝的背景が発症に関与していると考えられているが,その原因遺伝子,発症メカニズムは未だ明確にされていない。最近の次世代シークエンス技術の発展により,自閉症患者で特異的なゲノムコピー数多型が様々な染色体領域で同定されるに至っている。しかしながら,自閉症の発症に直接結びつくような原因遺伝子の同定に成功した例は非常に希で,自閉症患者で認められるゲノムの欠失,重複により二次的に周辺の遺伝子の発現に影響を与えている可能性が示唆される。このことから,我々は自閉症やレット症候群,脆弱性X症候群などの広汎性神経発達障害の原因の一つに,「染色体構造の大きな変化」や,「染色体ペアリング」といったグローバルな発現制御機構がそれらの複雑な臨床症状に寄与しているのではないかと考えている。本講演では,ヒト染色体工学技術を用いた以上のような自閉症発症機序におけるクロマチンダイナミクスに関する最新の知見を紹介すると共に,その今後の応用についても述べる。
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