石川県能登半島の住民と野鼠が保有する紅斑熱群リケッチアに対する抗体につい
て
金沢医科大学医動物学教室
及川陽三郎、池田照明
近年、ボレリア属の菌を病原体とし急性期には皮膚の遊走性紅斑、慢性期には
関節炎や神経障害などを引き起こすライム病や、リケッチアを病原体とし発疹や
発熱を主徴とする紅斑熱といった疾患がわが国にも存在し、マダニによって媒介
されることが明かとなってきた。しかし各地でマダニおよびマダニ媒介性疾患に
関する実態調査が進められている中で、石川県ではほとんどそれらに関するデー
タがなく、関連病院からの問い合わせに答えられない状態だった。そこで私達は
隣県の専門家の協力を頼みながらとりあえず能登地方だけでもと調査を開始し
た。いまだ充分な調査は行われていないが、その結果、能登半島に棲息するマダ
ニ種はわずか4種ほどと少なく、ライム病のわが国における主な媒介者と考えら
れているシュルツェマダニがこの地域に棲息している可能性は少ないことが判明
した。紅斑熱については、媒介者となるチマダニ類が多数棲息しており、また、
この地域で捕獲した野鼠では80%以上が紅斑熱群ケッチアに対する高い抗体価
を保有していた。このことから能登地方の野鼠の間に紅斑熱群リケッチアが広く
蔓延していることは明かと思われた。一方、地域住民の調査ではその約7%に抗
体価は低いながら陽性域の抗体が認められるが、石川県では紅斑熱の症例はいま
だ報告されておらず、この抗体がどの様な機序で獲得されたものか検討する必要
があると考えた。日本の紅斑熱患者より分離されたリケッチア株を用いてインヒ
ビションテストを行うと、この地域の住民の抗体の反応は野鼠の抗体により抑制
されなかった。また、マダニより分離された人のリケッチアとは異なる紅斑熱群
リケッチアに対する反応をみると、野鼠の血清では人のリケッチア株を用いたと
きとほぼ同様の抗体価を示すのに対し、地域住民の血清では抗体価の明かな低下
を認めた。すなわちこれらの実験結果から、人と野鼠の抗体の性状はかなり異な
っており、両者が同じ種類のリケッチアの感染を受けたとは考えにくいと思われ
た。本会では、これまでの石川県能登半島におけるマダニおよびマダニ媒介性疾
患に関する調査結果の概要を報告するとともに、実験結果をふまえて住民と野鼠
の保有する抗体の持つ意味について考察する。
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