がん研究における種横断的視点


金沢大学・がん進展制御研究所 腫瘍分子生物学研究分野
教授 高橋 智聡

今日のがん研究においては、ごく当たり前の様に遺伝子組み換えマウスを用います。ヒトを使ってはできない実験だからという消極的な理由に加え、マウスでしか判らないことが沢山あるという積極的な理由があるからです。実際に、ヒトがん研究の歴史を辿ってみますと、観察する種を違えることによって、沢山の重要な発見が成されています。私も、レチノブラストーマ(RB)がん抑制遺伝子の新規機能を探索する研究の過程で、種横断的な視点から研究対象を眺めることによって、小さなブレークスルーを得るという体験をしてきました。具体的には、線虫の変異体を用いた遺伝学的研究からヒントを得、RBとRasプロがん遺伝子の新しい関係に気付き、マウス遺伝学を用いてそれを実証、分子機構を解明したことから、もっと沢山のRB新機能が見えてきました。更に、そのことから、がん細胞の未分化性を誘導・維持する機構としての炎症や代謝異常の理解が深まりました。本会では、これらの事例をご紹介しながら、動物実験の必然と必要を考察していきたいと存じます。


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