妊娠時免疫の仔動物能動免疫への影響
金沢医科大学血清学教室
王 秀霞, 山口宣夫
【目的】
母子間の免疫現象として研究されている課題は、母親が他個体(父方)の遺伝子を部分的に表現する胎児をなぜ拒絶しないかという点に集中する傾向がある。本研究は母子免疫の範略の中でも母親が妊娠中に感染等の抗原刺激を受けたとき、出生する新生児の能動免疫能力にいかなる影響が及ぶのか検討することが主眼である。これまで妊娠中の母マウスを免疫すると、その仔の能動免疫が長期に亙り抑制されることを報告してきた。この抑制は母子間においてMHC拘束であり、CD−4陽性細胞が母子共に関与していた。MHC拘束性を確認するためにKOマウスを用いて検討したところ母親由来の細胞がCognateな機構により相互に作用していることが示された。そこで今回仔における母親由来細胞の証明を試みた。母親から仔への干渉が受動的な一過性の抗原又は抗体等の分子成分のみではなく母親由来の細胞による能動的機構であるとの可能性を追求している。
【方法】
C3H/He×C57BL/6のF1(k/b)雌マウスをC57BL/6の雄マウスと戻し交配し、妊娠10〜12日目の母親マウスを準備した。この母親マウスに、別のC3H/He母マウス(SRBCを2×108 /匹 i.p.刺激済み)より得たT細胞を移入した。その後、出生した仔を6〜8週齢まで飼育し実験に供した。細胞の同定はFACScanと細胞障害反応を利用した。
【成績】
上記の方法で交配すると生まれた仔マウスは(b/b)および(b/k)に分離する。その結果、SRBCに対する反応性を抑制されたのは(k/b)タイプの仔マウスであった。仔マウス脾臓中のリンパ球亜型をI・Aハプロタイプ抗体により同定すると、出生後いずれのタイプの仔マウスでもI・Ab型リンパ球の割合が減少した。またk/kタイプの細胞集団には出生後次第に占める割合が増えると同時にI・Ab型細胞に対して、細胞毒性性を示す細胞が増加した。
【考察と結論】
従来の成績を総合すると妊娠中の抗原刺激による仔の能動免疫の抑制は抗原、抗体いずれによるものではなく、母親由来の細胞が仔に抑制性の細胞を誘導する事が示唆されてきた。今回、戻し交配系と細胞の受身移入システムを利用し、母親由来の細胞が仔に移動している成績はMHC拘束性の成績とも符合して、生物学的な意義は大きいと思われる。
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