軸索の維持に関わる細胞自律的機構

福井大学学術研究院工学系部門
小西慶幸

軸索の形態の調節は適切な神経回路の構築や可塑性おいて非常に重要であるが、神経細胞が突起の特定の部位を識別し、構造を調節する機構は十分には解明されていない。我々は神経細胞内の区画に依存した微小管の違いが、このような識別に関与する可能性を考え研究を行ってきた。これまでの研究で、樹状突起と軸索における微小管の翻訳後修飾の違いが軸索輸送機構を介して神経極性の維持に関わることを報告した。さらに、このような機構が分岐軸索形態の細胞自律的な調節にも寄与する可能性について解析した。例えば、分岐した軸索の一方の枝の伸長は同時に隣接した枝の退縮を引き起こすという競合的な調節の存在が知られているが、細胞がどのようにして空間に依存した構造制御を達成するのかは解明されていない。小脳顆粒細胞の分岐軸索における解析から、枝長の短い軸索枝においては微小管のターンオーバーが速くキネシンを介した軸索輸送の効率が低いことで退縮の頻度が高まることが示唆された。枝間における微小管の違いが生じる機構については、枝の区画に依存した微小管の安定性の制御と枝長に依存した制御が考えられるが、微小管の伸長速度及び頻度についての解析からは枝に依存した制御の存在は示唆されなかった。このため伸長退縮の速度・頻度を一定として数理モデルを構築し、シミュレーションを行った結果、枝長のみに依存して微小管のターンオーバーに差が生じ得ることが示された。これらの結果は軸索の幾何学的特性と微小管の安定性に依存して枝間差を調節するシステムの存在を示唆するものである。


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