遺伝子ノックアウトマウスの作製法とその応用例
金沢大学医学部附属動物実験施設
浅野 雅秀
ES細胞を用いた遺伝子ノックアウトマウス(KO)が作製できるようになってから約10年が経ち,基本的な技術は確立したように思われますが,最近はコンディショナル・ノックアウトやクローン技術を用いたものなど新しい技術の開発も盛んになってきています。ヒトゲノムの全塩基配列の解明ももう間もなく完了しようとしており,ポストゲノム研究として,約10万個あると言われている個々の遺伝子の機能を解明するために,遺伝子KOマウスはますます重要な手法となってきています。またヒトのES細胞を用いた研究が一部許可されたことから,ES細胞から様々な幹細胞の樹立や臓器再生の研究が行われていく可能性があり,臓器移植に代わる新しい医療に道を開くものとして注目されています。
私はこのたび東京大学医科学研究所から金沢大学医学部附属動物実験施設に移ってまいりましたが,こちらでも遺伝子改変マウスを用いて研究を展開していこうと考えております。今回は北陸実験動物研究会で講演する機会を与えていただきましたので,まず遺伝子改変マウスの基本的な作製方法から,最近の新しい手法について簡単に解説させていただきます。そのあとここ数年行ってきました研究を二つばかり,その応用例として話させていただくことにします。一つは糖転移酵素遺伝子のKOマウスを用いて生体内の糖鎖の機能を解析したものです。糖鎖が個体発生に果たす役割並びに白血球の細胞接着に果たす役割について,いくつかの知見を得ていますのでお話いたします。もう一つは受容体型のタンパク質チロシン脱リン酸化酵素(PTP)のKOマウスを用いた神経系でのチロシンリン酸化の役割についての研究です。高次の神経機能,特に記憶や学習において,タンパク質のリン酸化が注目されていますが,逆の反応を行う脱リン酸化酵素のKOマウスを用いての解析です。また時間がありましたら,これからどのように研究を展開していきたいかについてもお話できればと考えております。
動物実験施設は共同利用施設としての側面も持っておりますので,この北陸の地でいろいろな先生方と共同研究も進めていきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
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