2)こうしたマニュアルに基づき、動物実験が遂行されるわけですが、それでも人間がやる限り事故が発生するケースがあるわけで、事故の対策をマニュアル化しておくことが必要であります。筑波霊長類センターでは、事故に対し、大別して予防措置と、事故時対応の2つに別けてノウハウが整理されています。サル類は特に他の実験動物にはない危険性を持っています。第1はヒトに近いため、後に述べるように数多くのヒトとの共通感染症があります。第2は手や尾を非常にうまく使うという点です。第3は知能か高く、その分飼育、取扱いが難しい点があります。
サル類のケージは、挟体板付のケージで個別飼育型の方が、動物の捕獲には安全です。また薬物投与や、病原体接種あるいは採血の際には、動物に苦痛を与えないためにも、実験の安全性の確保のためにも麻酔が必要です。さらに雄ザルは大きな犬歯を持っているので性成熟に達する前に抜歯あるいはカットする方が安全です。防御衣、金属ネット付き手袋、ゴーグル、腕カバー、前かけ(防水性)等の着用も感染事故を防ぐ点では必要な用具です,また正常時の動物実験関係者の血清の保存等も事故対策上必要です。
サル類を用いた実験中の咬傷、引っ掻傷、針さし事故の対応については、出来るたけ早い患部の洗浄、ヨード剤・アルコール等による消毒と応急処置(ピンセット、ハサミ、ガーゼ、バンドエイド、包帯、綿棒等、応急処置用キットとして、マニュアル書とともにセットにして、各実験室に置いておきます)をします。事故報告をすると共に、専用の医院(日常的に連絡の取れている専門医)に直行します。事故者の血清の保存と1、3ケ月及び必要に応じて6ケ月、1年後の血清チェック、及び危害を与えた動物の抗体検査が必要です。この他に動物実験に伴う事故の対応としては、各実験の特殊性(ケミカルハザードを含めて)に応じた事故対策か必要とされます。立て前だけでなく、実際に起こり得る場面をシミュレートした現実的対応のマニュアルを作成しておく必要があります。
3)サル類の感染症には、大きく分けてサルからヒトに来る感染症、ヒトからサルに行く感染症及びサル間で流行する感染症の3種類があります。サル類からヒトに来る感染症の中で重要なものにはBウイルスがあります,これはヒトへの感染率は高いものてはありませんが、神経系を巻き込むと致命的になります。最近では抗ヘルペスウイルス剤の有効性が認められています。この他にモンキーポックスやマールブルグウイルス、エボラウイルス等のフィロウイルスがあります。サルのフィロウイルス(レストン株)は、ヒトに対する病原性はありません。ウイルス以外では、原虫症てあるアメーバ赤痢があります。重症例では肝膿瘍を作り死亡することもあります。
ヒトからサル類に行き、またヒトに感染する感染症としては、A型肝炎、結核、細菌性赤痢が重要なものです。直接ヒトには感染しませんが、サルのコロニーで流行すると致死的な流行を起こすものに、水痘様ヘルペスウイルス、D型レトロウイルス、サル出血熱ウイルス等があります。
動物実験を管理するにはこれまでに述べた種々の情報を理解した上で、動物実験を安金に行うためのマニュアルを作成し徹底することが必要だと思います。