自然発症てんかんラット SER の病態解明と展開研究


芹川忠夫
(京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設)


 自然発症てんかんラット(SER, Spontaneously Epileptic Rat) は,トレモアラット(tm 突然変異をもつ)とジッターラット(zi 突然変異をもつ)の交配から作製したダブルミュータントである (Serikawa and Yamada, J Heredity 77: 441-444, 1986)。このラットは,欠神様発作と強直けいれん及びこれに続く強直間代けいれんとに大別される複数のてんかん発作を自然発症する。既存の抗てんかん薬に対するこれらの発作抑制効果を調べた結果,欠神様発作はヒトの小発作,強直けいれん及びこれに続く強直間代けいれんはヒトの大発作に対応すると概ね判断され,これら2種のてんかんの反応性は独立していることが判った。そこで,新たなてんかん薬の評価・申請に,SERでの検定結果が添えられるようになった。これまで2種のてんかん薬の承認において,SERが利用された実績がある。現在,他の新たな薬剤の検定が進められている。
 一方,SERの原因遺伝子を同定するために,起源系統であるトレモアラットとジッターラットについてのポジショナルクローニング研究を実施した。その結果,トレモアラットのtremor (tm) 遺伝子は第10染色体にあり,そこには200kb以上のゲノムの欠失があることが判明した。そして,その欠失部位にアスパルトアシラーゼ遺伝子があり,この酵素の欠損により蓄積されるN-acetyl-L-aspartate (NAA) が,トレモアラットの中枢神経系の空胞変性とてんかん発作を起こさせると考えられた (Kitada et al. J. Neurochem, 74: 2512-2519, 2000, Akimitsu et al. Brain Res, 861: 143-150, 2000). アスパルトアシラーゼ欠損症は,小児の致死性疾患であるカナバン病として知られている。トレモアラットは,この病気の遺伝子治療を含む治療法の開発研究に利用され始めた。一方,ジッターラットの原因遺伝子である zitter (zi) 遺伝子は第3染色体にあることを報告していたが,最近,その原因遺伝子の本体は,ヒトではアトラクチン,マウスでは以前マホガニーと呼ばれていた遺伝子の変異であることを明らかにした (Kuramoto. et al. Proc Natl Acad Sci USA, 98: 559-564, 2001)。これまで,アトラクチン遺伝子の機能は,免疫応答,毛色決定,エネルギー制御に係わるとされていたが,我々は中枢神経系におけるミエリン形成保持に必須の役割を演じていることを新に見いだしたのであった。

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