げっ歯類における水痘―帯状疱疹ウイルス潜伏感染の定量的モデル


佐藤仁志、Lesley Pesnicak、白木公康、Jeffrey I. Cohen
富山医科薬科大学医学部ウイルス学、 Medical Virology Section, Laboratory of Clinical Investigation, National Institute of Allergy and Infectious Diseases, NIH, Maryland, USA


 水痘―帯状疱疹ウイルス(VZV)は初感染でウイルス血症ののち全身に発疹を生ずる水痘を引き起こし、感覚神経節に生涯にわたって潜伏感染する。VZV特異的免疫の低下により、ウイルスは再活性化し回帰感染の結果、帯状疱疹を引き起こす。VZVは種特異性が高いため(ヒトにしか病原性を示さない)、以上のような疾患を表す動物モデルが存在せず、ウイルスの病原性に関わる因子を検討することが非常に困難である。
 潜伏感染はヘルペスウイルスに共通する最も重要な特徴である。最も近縁の単純ヘルペスウイルス(HSV)はより神経向性が強く、VZV同様に感覚神経節に潜伏感染を確立する。しかしながら、HSVの潜伏感染中には潜伏感染関連転写物(LATs)と呼ばれるRNAを発現しているだけで蛋白の発現は確認されていないが、一方のVZVの潜伏感染においては、ORFs 4, 21, 29 , 62, 63, 66の6種のウイルス遺伝子RNA転写物及び蛋白の発現がヒトの剖検組織にて確認されている。近年ラット(Wister)においても、in situ hybridization によって潜伏感染しているVZV DNAと潜伏感染時のRNA転写物を検出できるようになった。
 これまで、VZVはヒト、サル、モルモットの細胞でのみ増殖することが認められていたが、われわれはコットンラットの繊維芽細胞でも増殖することを見出した。そこでコットンラットを用いてVZVの感染実験を行ったところ、脊髄神経節に潜伏感染しているVZVのDNA量を定量的に評価する実験系を確立した。コットンラットの脊椎近傍にVZVを筋内接種、一ヵ月後に脊髄神経節を切除し、VZV DNAの定量をPCR及びサザンブロットにより行い、脊髄神経節におけるVZV DNAのコピー数を求めた。また、RNAの検出もRT-PCRとサザンブロットにより行ったところ、VZV潜伏感染中最も多く発現されているORF63転写物は確認できるが、ORF40転写物(ORF40蛋白はウイルスのカプシドを構成する)はほとんど検出できなかった。この系において、種々の部位特異的VZV変異株を用い各VZV遺伝子の潜伏感染成立における重要性を検討したので報告する。


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