ラット化学肝発癌モデルにおける癌の化学予防


杉江茂幸
金沢医科大学 腫瘍病理学講座


 これまでに我々はazoxymethane(AOM)やdiethylnitrosamine(DEN)で誘発される肝細胞癌や肝細胞腺腫,肝前癌性病変として知られる肝細胞酵素変異巣を指標として種々の天然性ないし合成化合物等の修飾作用を検討してきた。AOM誘発肝発癌モデルでは,有機セレニウム化合物,魚油,自主運動,食餌制限が主にポストイニシエーション期に投与ないし実行されることによって抑制効果が認められた。DEN誘発肝発癌モデルでは,油菜や白菜,ブロッコリー等のアブラナ科植物に含まれる有機硫黄化合物benzyl isothiocyanate (BITC),benzyl thiocyanate(BTC)を全実験期間中投与し,肝細胞腫瘍,肝細胞酵素変異巣の抑制傾向が認められた。抑制効果はBITCで顕著であった。DEN-phenobarbital(PB)誘発肝発癌モデルを用いて,カリフラワー等に含まれる有機硫黄化合物methyl methanethiosulfonate (MMTS),緑黄野菜に多く含まれるchlorophyllin (CHL),魚介類等に多く含まれるtaurine,ニンニクに含まれる無臭成分で有機イオウ化合物のscordininの修飾効果を検討し,MMTSはプロモーション期にのみ,CHLはイニシエーション期に主に,taurine,scordininはイニシエーション期,プロモーション期共に発癌抑制効果を認めた。肝細胞酵素変異巣でも同様の傾向を認めた。ギャップ結合増強作用が報告されているirsogladine maleateをDEN-PB誘発肝発癌モデルを用いて,そのプロモーション期に投与し,顕著な発癌抑制効果を認めた。MMTS,CHL,taurineはその実験系で肝のornithine decarboxylase (ODC)活性を測定し,共に抑制作用を認めた。BITC,MMTS,taurineには抗酸化作用が確認された。発癌抑制機序として細胞間連絡促進作用,細胞増殖抑制作用,抗酸化作用等が推定された。

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