高病原性鳥インフルエンザの発生
西藤 岳彦
動物衛生研究所・感染病研究部・病原ウイルス室
A型インフルエンザウイルスは,8つの分節からなる−鎖のRNAを遺伝情報として持つオルソミクソウイルス科のRNAウイルスである。野生の水禽類や海鳥などを自然宿主とし,表面抗原である赤血球凝集素(ヘムアグルチニン:HA)およびノイラミニダーゼ (NA) の抗原性によりH1〜H16,N1〜N9の亜型に分類される。H5およびH7型に分類されるトリインフルエンザウイルスの一部は,ニワトリなどの家禽に対してきわめて伝染性の高い致死的感染性を示すことから,家禽ペストと呼ばれていた。数々の研究によって,家禽ペストと呼ばれる強毒型の高病原トリインフルエンザウイルスは,HAタンパク質分子のHA1とHA2の開裂部位に塩基性アミノ酸の連続する分子構造を持っており,この塩基性アミノ酸の連続が高病原性トリインフルエンザウイルスの病原性を規定していることが明らかにされている。
2005年に茨城県で発生したH5N2型鳥インフルエンザウイルスの流行は,弱毒型のH5型ウイルスによるものであった。本ウイルスは野外でも本ウイルスに起因すると考えられる臨床症状の報告もなく,実験感染でもまったく症状を示さない弱毒型であった。このように症状を示さない弱毒型の流行は,臨床鑑別による摘発を困難にし,感染群の摘発が長引いた一因となったと考えられる。分子疫学的な手法を用いた解析によって,本ウイルスがメキシコを中心とする中米大陸に存在するウイルスと近縁であることが明らかにされた。
メキシコでは,1993年以来H5N2型のウイルスが存在しており,1994年には強毒型のウイルスが分離されている。メキシコではワクチンによる防疫が試みられ,いったんは強毒型ウイルスの流行が抑えられたが,現在に至っても弱毒型ウイルスが分離され続けている。
1996年以降アジアでは,H5N1型の高病原性トリインフルエンザウイルスが家禽の間で流行を続けており,この流行は現在ヨーロッパ地域にまで広がる勢いを見せている。家禽でのH5N1型高病性トリインフエンザウイルスの流行は,産業動物としての損失とともに,人への感染を引き起こすことによって新型インフルエンザウイルスの出現によるパンデミック発生の危険性をもはらんでいる。2003年以降タイ,ベトナムでの鳥インフルエンザによる人感染の多発に加え,2005年には新たにインドネシア,中国,トルコ,イラクなどでの感染,死亡が確認されている。動物由来感染症である新型インフルエンザの出現予防には,家禽における的確な鳥インフルエンザの防疫処置がとられることが重要である。
北陸実験動物研究会ホームページに戻る