消化器癌と糖尿病におけるCOX-2経路の役割
大島 正伸
金沢大学がん研究所腫瘍遺伝学
多様な生理作用を持つプロスタグランジンは、アラキドン酸を基質としたPGH2合成と、変換酵素群によるPGH2からの変換により産生される。PGH2合成反応は、恒常的に発現するCOX-1と誘導型酵素のCOX-2が担う。COX-2は炎症反応や腫瘍発生などで誘導されており、病理的状況での役割が知られている。また、COX-2の下流ではmPGES-1という変換酵素がPGE2産生を行なっている。さまざまな病態の中で、特に消化器癌と糖尿病に着目し、それぞれにおけるPGE2の役割を明らかにするために、胃粘膜上皮および膵臓細胞でCOX-2とmPGES-1の双方を同時に発現するマウスモデルを作製して解析を行なった。
(1)発がんにおけるPGE2の役割:COX-2阻害作用のある非ステロイド抗炎症薬には消化器癌予防作用が知られている。実際にCOX-2ノックアウトマウスでは消化器腫瘍の発生が抑制される。胃粘膜でCOX-2とmPGES-1を発現させたK19-C2mEマウスでは、マクロファージ浸潤と炎症反応をともなう粘液細胞化生が顕著だった。また、胃がん発生に重要と考えられるWntシグナルを亢進したマウスと交配すると、大きな胃粘膜腫瘍が発生した。したがって、PGE2は炎症反応を介して、Wntシグナルとの相互作用により腫瘍発生に関与していると考えられた。
(2)糖尿病におけるPGE2の役割:II型糖尿病が慢性に経過すると膵臓β細胞数が減少する。この現象について、COX-2経路の関与を示唆する観察結果が報告されている。そこで膵臓β細胞でCOX-2とmPGES-1を発現させたRIP-C2mEマウスを作製すると、離乳後のβ細胞増殖率が低下してβ細胞数が減少し、その結果、糖尿病症状を呈した。この結果は、COX-2経路がII型糖尿病の悪化に関与している可能性を示している。
これらのモデルマウスの観察結果から、PGE2は消化管粘膜と膵臓で、異なる機序により異なる疾患の発症に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。今後、これらのモデルを用いて分子病理発生機序を解明したい。
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