第40回日本実験動物技術者協会総会参加報告
内本 淳
金沢大学学際科学実験センター実験動物研究施設
10月27日〜28日まで京都で行われた日本実験動物技術者協会総会に参加させて頂きました。今回は40周年の記念大会ということで大変盛大に行われました。
さて、総会の中身ですが、シンポジウム、ナショナルバイオリソースプロジェクト-ラット共催では京都大学の芹川忠夫先生が座長をされてNBRP-Ratにおけるラット胚精子の保存状況の説明がありました。文部科学省は平成14年よりナショナルバイオリソースプロジェクトを開始し、ライフサイエンスの総合的な推進を図る目的で、実験動植物やES細胞のなどの幹細胞、各種生物の遺伝子材料等のバイオリソースのうち、国が戦略的に整備することが重要なものについて、体系的な「収集・保存・提供」をおこなうものです。ラットプロジェクトにおいては、平成18年6月末までに、国内49機関、海外2機関から合計352系統のラットを近交系(106)、ミュータント系(75)、コンジェニック系(135)、トランスジェニック系(36)と数多く、収集されたそうです。研究分野別では標準的な系統に加え、糖尿病、肥満、ガン、腫瘍、循環器系疾患・高血圧、脳神経疾患、免疫・アレルギー疾患、代謝・内分泌疾患、発生異常、骨形態異常、歯科疾患、皮膚疾患、消化器疾患、耳鼻疾患、血液疾患、泌尿器疾患、行動・学習など多岐に亘って収集されています。詳しくはhttp://www.anim.med.kyoto-u.ac.jp/nbr/を御覧下さい。これら収集されたラットは体重だけ見ても10週齡で150g〜400gとバラエティーに富んでおり、いろいろな特性の違いを見極めて使いこなすことが大切だそうです。先程紹介したホームページでは特性検査チャート、ゲノム検査チャート等収集したラットの性質が整理されており、平均的な重さや血圧、血清グルコース量等、実験に必要なデーターを入力する事により、適したラットを選択する事が出来そうです。現在これらのラットを無償で提供しており、随時興味のラットが有れば大いに活用して頂きたいとの事でした。ラットとマウスの論文数の比較ですが、ノックアウトラットが多くできるようになるとラットが増えるだろうと思われるそうです。昔はラットの方がマウスより論文数が多かったが、遺伝子改変動物の技術がマウスで進んでいる最近では、圧倒的にマウスが多くなったからだそうです。シンポジウムの最後にラット胚・精子の超低温保存と個体復元技術マニュアルのDVDが無料配付されました。DVDにはラットの胚・精子の凍結融解移植の操作方法が映像満載で分かりやすく載っており、初心者からも十分に使える内容となっていました。
同志社大学の小泉範子先生の『再生医療研究と実験動物』〜サルを用いた角膜内皮再生医療の開発〜では角膜内皮再生医療の現在等が紹介されました。ヒトやサル等の霊長類の角膜内皮細胞は生体内では増殖能力もたない事が知られており、疾病や外傷、眼内手術などで障害されると角膜内皮細胞が脱落して細胞密度が低下し、角膜内皮機能不全に陥ります。ウサギやマウスの角膜内皮細胞は霊長類とは異なり生体内でも高い増殖能力もつ事が知られており、移植後長期間の観察に適しておらず長期にわたる安全性や有効性の評価を行う上でサルを用いたそうです。ちなみに角膜内皮細胞は25000-30000個/mm3だそうで、500個を下回ると透明な部分が白く濁ってきて見えなくなるそうです。急性期Stevens-Johnson症候群は今まで手術すると炎症などを起こしてしまい、手を加えることが禁忌であったがサルを用いた培養角膜内皮シート移植の研究によりそれらの疾病に対する治療法が開発され、重症の眼表面疾患に対しても外科的再建術を行い、日常生活に有効な視力を回復温存させることが可能になりました。例をあげると、ほとんど視力が無かった疾病患者が6年間1.0の視力を保ち続けているとか。このように動物実験と臨床を行き来することにより治療は進歩しています。今後、これらの基礎的研究を進める上でも、霊長類を用いた動物実験が重要となってくると考えられます。しかし、動物愛護の観点からは、高等な知能を持つ霊長類を用いた医学研究に対する社会的な批判が強まっており、動物生命倫理を無視した研究結果は社会から受け入れられません。我々は、臨床応用を行う上では科学的正統性はもちろんのこと、社会的、倫理的にも広く受け入れられる研究を行って行く事が重要であると考えている、と言われ、自分も一実験動物技術者として適切に動物の飼育管理を行って行かなければならないと考えました。
養老孟司先生の特別講演『これからの実験動物技術者に求められる事!』では若いころにトガネズミを追い掛け北海道や、スンクスを追い掛け台湾に渡った話等をお聞きしました。トガネズミはとても小さく全身の切片を作る上で重宝するそうです。トガネズミは種類によって20g、10g、5gと重さが別れておりそれぞれの大きな物のテリートリーに重ならない様、分布していて小さい種類の物が最も数が少なく見つけにくい。トガネズミはいったいどういう生活をしているかと調べてみても、一つの動物を理解する事は一生をかけても難しい。ヒトと動物の違いは社会動物で脳が大きくなった事。それでは脳は何をする物かと言うと、五感で受けた入力を運動として出力する器官で体の動かす為のものです。体を動かすと言う事は脳を動かすということです。からだの動きが脳の機能である。巨人の長島選手が、コントロールの良いことで有名な阪神タイガースのピッチャー小山選手に、いろいろ考えて投げたが良く打たれたましたと言われました。すると長島選手はピッチャーは考えて投げていたのかと言い、いつも、どうしていたのかと問うと、来たボールをバットの芯に当てると良いのだよとの答えた逸話が有ります。その事を学生にすると、話す前は、長島選手はバカだと言っていますが、話した後では口籠ってしまいます。チンパンジーはおしゃべり出来ませんが、人は言葉を持っています。言葉を持つという事は同じという事を理解するということです。例えば会場にいる人は皆違うが、言葉にしてしまうと同じ人である。飼犬は家族が自分の名前を読んでも寄ってくるが、犬には多分別の名前に呼んでいるように聞こえる。それら別々の音を犬は覚えて寄って来ているのではないだろうか。これと同じように人間は子供時代は絶対音感が備わっているが、言葉ができるようになる為には絶対音感は邪魔な物なのでだんだん失われている。人間は言葉で同じという事を理解する為に音に鈍くなったと考えられる。同じということは情報が変わらないという事を理解することであり、同じという物は世の中に存在しないが言葉の上では存在する。野生の動物は全ての器官を使って生きている動物である。動物を理解するということは、実験動物を扱っていると、全てコントロールしなければならないと考えておられる方々がおられるかも知れないが、元々、野生の状態で生きている生き物がいた事を頭の片隅においておき、理解して頂きたい。動物とつき合うと本来の自分に立ち戻る事ができ、動物を見るということはひるがえって自分の鏡ということであり、自分自信の理解が進む。このように動物とつき合うと本来の自分に立ち戻る事ができる。とのことでした。
器材展示で目を引いたのは洗浄用ロボットシステムで、ロボットがロータリーワッシャーのターンテーブル上の移動しているケージを停止させずに連続して取り出すシステムだそうで、今後、省力化に必要な技術かもしれないと感じました。しかし初めに作業台に乗せるのが人力でまだまだ改良の余地が有りそうです。また、一度壊れると直すのが大変そうですし、稼働率をあげる為にはかなり高度な技術が必要のようでした。床敷の紙も各社盛んに宣伝していました。木製のチップと比べると埃やアンモニアガスが出にくい等利点も多そうですが価格がやや高いみたいです。利用者や動物の入舎等を管理するソフトも展示されていましたが、金沢は先生がきめ細かく管理し、いつも改良を加えて下さるので、高いソフトを買わずに済んでいるんだなと改めて思いました。
最後に、北陸実験動物研究会に今回、旅費を出して頂き、総会に参加する事が出来ました。この場を借りましてお礼申し上げさせて頂きます。有り難うございました。
北陸実験動物研究会ホームページに戻る