未分化性の維持と発がん


山田 泰広1,2、コンラッド ホヘドリンガー1、ルドルフ イェーニッシュ1、森 秀樹2
1ホワイトヘッド研究所 / マサチューセッツ工科大学 2岐阜大学大学院医学系研究科 腫瘍病理


 癌細胞の起源は、幹細胞を含む未分化細胞である可能性が示唆されてきた。近年、幹細胞と癌細胞が、分子生物学的に多くの類似した性質を有することが明らかになりつつある。Oct-4は胚性幹細胞(ES細胞)に高発現する転写因子で、ES細胞の未分化性維持、多分化能維持に必須であることが知られている。我々は、成体マウスにおいてOct-4を強制発現させることにより、成体におけるsomatic stem cellsおよびprogenitor cellsでの未分化性維持を試みた。Oct-4強制発現により、腸管に異型細胞の出現を認め、発現5日後には腸管内腔が消失するほどの異常増生が観察された。同様に皮膚では、hair follicleにおける異型細胞の増生を認め、約3週間のOct-4発現により皮膚腫瘤形成を認めた。一部には浸潤性増生が示唆された。いずれにおいても異型細胞には、各臓器における未分化細胞マーカー発現が認められた。さらに、Oct-4発現停止により、異型細胞は一斉に分化を開始し、複数の異なる分化細胞に変化し、腫瘤は消失した。腫瘤を形成した異型細胞が、実際にstem cellsもしくはprogenitor cellsであることが示唆された。また、Oct-4発現による異型細胞増生にはWnt pathwayの活性化が関与していることが示唆された。これらの結果は、未分化性維持と発がんの関連を示すとともに、未分化性維持の研究が発がん研究に応用できる可能性を強く示唆するものと考えられた。

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