「当施設でのマウスの発生工学関連技術の確立」
福井医科大学医学部附属動物実験施設
当施設では,1細胞期胚前核へのDNAコンストラクトの注入によるトランスジェニックマウスの作出,8細胞期胚あるいは胚盤胞期胚へのES細胞の注入(注入キメラ)あるいは共培養(集合キメラ)によるノックアウトマウスの作出を共同研究で行っている。その際,計画的かつ効率的な胚の生産,利用をはかるため,さらには樹立した遺伝子操作マウスの系統保存を目的として,体外受精,精子の凍結保存,胚の凍結保存などマウスにおける発生工学関連技術の確立を昨年から目指してきた。以下のテーマでこれまでの経過と現状について,また,施設管理面の応用として胚移植による微生物クリーニングについて話したい。
1.凍結保存精子によるマウスの体外受精 ─凍結精子の受精能のマウス系統差─
○加藤秀次,宮越久行,向川市郎,糸崎悦子,前田秀之,小泉 勤
一度に大量の受精卵を得るため,あるいは微生物クリーニングのために新鮮精子を使ったマウスの体外受精をおこなっているが,さらには遺伝子操作動物の系統保存,あるいはマウス飼育にかかるコスト削減を目的として凍結精子による体外受精技術の確立を試みた。
凍結融解後の精子の生存率や活性はマウス系統差があるとされ,C57BL/6ではきわめて悪く,通常の体外受精では受精させることが困難であり,受精率の向上のために透明帯部分切開(PZD)などの補助的手段が必要とされている。我々は凍結精子での体外受精技術の確立のために,C57BL/6, C3H/He, B6C3F1マウスを用い,凍結精子の受精能について比較検討した。融解後の生存率,活性は明瞭な差がなかったが, C57BL/6の凍結精子では,媒精中に活性低下がみられ,受精に至らなかった。 これに対し,C3H/HeやB6C3F1では凍結精子で体外受精が可能であった。 今後は精子の活性が低いために繁殖が困難な場合に対応できるよう,透明帯部分切開,あるいは顕微注入法による体外受精を検討したいと考えている。
2.胚移植による疾患モデルマウスの微生物クリーニング
○前田秀之,向川市郎,加藤秀次,宮越久行,糸崎悦子,小泉 勤
動物実験施設では,感染症対策から搬入できるマウスはSPF以上の微生物統御を受けているものに制限しているが,希望する系統マウスが必ずしもSPF状態で入手できるわけではない。このような場合,外部委託,あるいは動物実験施設の業務として微生物クリーニングを行う必要がある。当施設では,体外受精や胚移植の技術が確立されていることから,胚移植による微生物クリーニングをサービス業務の一貫として行うこととした。
マウスのクリーニングを行うにあたり,いかにして受精卵を数多く得ることが出来るかを検討し,マウスの繁殖力により次のような方法をとることにした。1) 繁殖能力が高いマウス系統では,過排卵処理を行い1対1の交配で受精卵を得る。 2) 雄の繁殖能力が低いマウスの場合には,過排卵処理を行い体外受精(必要に応じて透明帯カット,顕微注入などの補助手段をとる)により受精卵を得る。3) 両性とも繁殖能力が低いマウス,あるいは利用可能なマウスの数が少ない場合には,過排卵処理を行い1対1の交配を行い,交配(プラグ)を確認出来なかった個体については体外受精を併用し,できるだけ効率的に受精卵を得ることとした。今回,1)の例としてCBA/N pk-1,3)の例としてSAM P1, R1のクリニングの試みについて紹介する。
3.超急速法(ガラス化法)によるマウス初期胚の凍結保存
─胚ステージ,マウス系統での検討─
○糸崎悦子,加藤秀次,前田秀之,宮越久行,向川市郎,小泉 勤
マウス胚の凍結保存は,緩慢凍結と超急速凍結があるが,我々は特別な装置を必要としない超急速凍結法をまず検討し,良い結果が得られない場合は,プログラムフリーザーをつかった緩慢凍結を試みるという方針で胚の凍結保存技術の確立をめざした。
検討したマウス系統は遺伝子操作動物に用いているB6C3F1やC57BL/6が主であるが,この他,C3H/He, DBA, ICRで,また,胚のステージは,未受精卵,1細胞期,2細胞期,8細胞期,桑実胚,胚盤胞期胚を検討した。マウス系統や胚の発育ステージによる差は認められず,これらの系統マウスでは超急速凍結法による凍結保存が実用レベルで可能であった。凍結胚による系統保存法の確立するため,今後はより多くのマウス系統で胚の凍結保存を検討したいと考えている。
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