種々の疾患モデル動物の原因(遺伝子)解析


名古屋市立大学医学部

実験動物研究教育センター

安居院高志


 平成4年12月に名古屋市立大学医学部動物実験施設(現在、実験動物研究教育センターと改称)の新築に伴い赴任した。それ以降、以下のような疾患モデル動物の原因遺伝子解析を主テーマとして研究を行っている。
1)aganglionosisラットの原因遺伝子
2)LECラットの免疫不全原因遺伝子(thid)及びX線感受性遺伝子(xhs)
3)BBラットのリンパ球減少症原因遺伝子(lyp)
4)DW/J-grtマウスの甲状腺性成長遅延原因遺伝子(grt)
5)侏儒症ラットの原因遺伝子(rdw)
6)高血圧自然発症ラット(SHR)に欠損する新規のナトリウム利尿ペプチドレセプター遺伝子。
7)ネフローゼ自然発症マウス(ICGN)のタンパク尿原因遺伝子(nep)
 ここ2、3年でようやく研究体制が整ってきたところなので、決定的な原因の解明に至ったものはまだ少なく、殆どが研究途上のものである。今回は時間の制約もあるので、上記のテーマの中から5つの項目について概説したい。

1)aganglionosisラットの原因遺伝子
 aganglionosis ラットは、動物繁殖研究所において、Wister-Imamichiラットと野生ラットとの交雑から発見されたヒトHirschsprung病のモデルラットである。この原因がエンドセリンレセプタータイプB遺伝子の一部欠失によるmRNAのスプライシングの異常であることを明らかにした。

2)LECラットの免疫不全原因遺伝子(thid)
 LECラットは北海道大学実験生物センターで肝障害、肝癌を自然発症するミュータントラットして樹立された。しかし我々はこの異常とは別にこのラットの胸腺においてCD4+8-細胞の分化が遺伝的に阻害されていること(thidミューテーション)を発見した。この原因遺伝子については現在まだ同定し得ていないが、thidミューテーションにより、このラットの末梢T細胞に興味深い異常が見つけられた。今回はこのことについて概説する。

3)BBラットのリンパ球減少症原因遺伝子(lyp)
 BBラットはΙ型糖尿病を自然発症するミュータントラットである。糖尿病の発症に際し、末梢T細胞減少症(lymphopenia, lyp)が必須であることが報告されている。lypの原因遺伝子はまだ同定されていないが、胸腺におけるCD4-8+細胞の分化阻害がこの原因であると報告されている。しかしながら、我々はこのラットの胸腺細胞をFACSで詳細に解析した結果、lypの原因はT細胞の分化異常ではなく、末梢におけるT細胞のアポトーシスの異常な亢進であることを明らかにした。

4)DW/J-grtマウスの甲状腺性成長遅延原因遺伝子(grt)
 DW/J-grtマウスは小人症を呈するミュータントマウスであり、三重大学において同じく小人症を呈するDW/J-dwマウスのコントーロール系統から分離された。grt遺伝子座をマッピングした結果、Chr 5, 59 cMの位置にマップされ、元のdw遺伝子座、及びこれまでに報告されている他のマウス小人症のいずれの原因遺伝子座とも一致せず、新規の原因遺伝子座であることが判明した。現在この遺伝子の同定のためにポジショナルクローニングを試みている。

5)高血圧自然発症ラット(SHR)に欠損する新規のナトリウム利尿ペプチドレセプター遺伝子
 ナトリウム利尿ペプチドレセプター(NPR)は血管平滑筋、腎尿細管、脳などに発現しているが、我々はこのレセプターが胸腺髄質にも発現していることを見いだした。更に、薬理学的及び生化学的解析より、このレセプターが新規のNPRであることを明らかにした。更に面白いことに、高血圧を自然発症するラット、SHRの胸腺においてこのレセプターの発現が遺伝的に欠損していることを見いだした。現在この欠損の原因となる遺伝子座及びこのレセプターの遺伝子の同定を試みている。



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